十二章 ②『マーガレット・メイの推理』

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 それから、あたしはこれまでのことをマーちゃんに話した。


 ボタンばあちゃんが血相変えて現れたところから、赤蔵にいったこと、地下にあった秘密の部屋、棺桶で眠っていた若君との出会い。そこから始めて、内羽一族の秘密とか、いきなり血を吸われたこととか、病院に行ったことや剣道教室のことなんかも話した。


「それからマーちゃんと菜々子ちゃんのお母さんのところに行ったでしょ?」

「うん。それは覚えてる。あたし転んで、気を失っちゃったんだよね」

「そ。それから教会に戻って、マーちゃんのパパに会って……」


 また詳しく話し始める。帰り道で藤原君に会ったこと、財布を渡されてここから逃げるように言われたこと、そして家に帰ったら若君が姿を消していたこと。


 若君は翌日の月曜日に戻ってきた。一緒に登校し、小早川先生の授業を聞いて、その後倒れてしまった。このあたりはマーちゃんも一緒だったから簡単に説明した。それから藤原君が仲間を大勢連れて学校を襲ってきた。


「そう。それであたしたちは体育館に逃げ込んだけど、あたしは血を吸われて、また気絶しちゃった。そしてパパとさっちゃんのおじいちゃんが治療してくれたのよね」


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 あたしは話を続ける。今度はマーちゃんが倒れていた間のこと。教会での若君と四天王の戦い、しじまの時のこと、白いマント姿のヤカタ本人が現れたこと。それから最後にさっき若君から聞いたばかりの話も。マリア・メイという人のことや、若君が吸血鬼になったいきさつまでの全て。とにかく話すことはたくさんあった。それを思い出せる限り正確に話した。


「……で、今、マーちゃんとこうして話してるわけ」

 とあたし。話し終えたときには、なんだかすっかり心の中まで軽くなっていた。たぶんずっと一人で抱え込んできたからだろう。それは思った以上の重荷だったのだ。


「……さっちゃんもいろいろ大変だったんだね。気づいてあげられなくてごめんね」

「ううん。それはいいの。話さなかったあたしが悪いんだから」

「それより今はヤカタを捜すことが大事なんだよね?」

「そう。そこに戻ってくるわけなの」

「オッケー。じゃ、次はいよいよあたしの出番ね。推理の時間。まずはいくつか質問があるんだけど」


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 マーちゃんは枕元から、スヌーピーのぬいぐるみシリーズを集めてベッドの上に並べていった。スヌーピーとウッドストック、チャーリーブラウンにルーシー、ピアノの男の子やメガネの女の子なんかもいる。


 マーちゃんはその中から、まずスヌーピーを選び出して二人の間に置いた。


「まずは。今回の主人公。中心人物ね。まず第一に、犯人はどうやって吸血鬼になる方法を突き止めたのか?」

「それはあの本からじゃないの?」


「あたしの知ってる限り、あの本がこの教会から持ち出されたことはないはず。あれはずっと隠してあって、場所はパパしか知らなかったの。今回パパが持ち出すまで、あたしもあの本のことは知らなかったし」

「もちろんマーちゃんのパパは犯人じゃないしね……じゃあ、いったいどうやってあの模様を調べたのかな?」


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 マーちゃんはその答えにスヌーピーのふくらんだおなかを指で押さえた。

「たぶん調。若君さんの体にその模様があるんでしょ?」


「そっかぁ。なるほどね……あ。思い出した!鍵だ!」

 そう。突然思い出したのだ。

 


「開いてたんだ……あの時」

「なにが?」

「……あたしが初めてあの赤蔵に行ったとき。。あたし、ずっとおばあちゃんが先に入ってたと思ってた。でもそうじゃなかったんだよ……鍵はすでに開けられてたんだ」


「誰かが先に入ってたのね。そして若君さんの模様を写していった……」

「でもさ、すごく細かい模様なんだよ。簡単に写せるとも思えないし……」

「そんなのデジカメで撮れば一発だよ。あたしならそうするな。解像度をあげれば、結構細かく写せるしね」


「なるほどね。うん。それならできるね」

「そこで二人目が登場」


 マーちゃんはチャーリーブラウンを手にとってスヌーピーの隣に置いた。


。スヌーピーのことをよく知っている人物ってことになるよね」


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「ヤカタは若君が吸血鬼であることを知っている人間。そして吸血鬼になる方法があることを知っている人間。ってことだよね?そこでさっちゃんに二つ目の質問です」

 マーちゃんの推理は理路整然と進む。あたしはうなずいて質問を待った。


「内羽一族の秘密って、一族の中だけの秘密なの?それとも町の人がある程度は知ってるのかな?」

「うーん。ある程度は知ってるんじゃないかな。さっき教会で、おじいちゃんとか、おばあちゃんたち、若君のこと知ってたみたいだった。なんか昔話で聞いたことがあるって」

「老人たちの間では、伝説や昔話として伝えられてる、そんな感じかな?」

「たぶん。でも、内羽一族だけが若君に血を与えてきたっていうのは、秘密だったと思う。そこまでは知らなかったと思う」


「となると、ヤカタは老人ってことかもね。しかもデジカメが使えるような人」

 うんうん。さすがマーちゃんだ。もうすぐ犯人がつかめそうな気がしてくる。


「さて、最後にもう一人。重要な人物がここに登場します」


 マーちゃんが取り上げたのは、鮮やかな黄色のウッドストックだった。

 あたしにもこれが誰だかピンときた。特に黄色のトサカで。


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「藤原君でしょ?」

「そう、。最初から彼は中心で動いてた。さっちゃんの前に現れて『逃げろ』って警告したんでしょ。それって彼が計画を立てていたってことだよね。それに教会で戦ったとき、ヤカタの人は藤原君を守ったんでしょ?」


「そう。ヤカタは若君から藤原君を守って、どこかへ連れてちゃったの。でもね顔はぜんぜん見えなかったんだ……白いマントみたいのをかぶってさ。背は高くなかったし、特に太ってるかんじでもなかった。分かるのはそれぐらいだったな」


、ってとこが重要なのよ。ヤカタはきっと藤原君の周囲にいる人。そしてたぶんさっちゃんが知ってる人なのよ」

「あたしが知ってる人?」


「そう、内羽一族としてのさっちゃんを知ってる人だね。だから顔を隠してた。でも、よく知ってるのは向こうの方で、顔見知りってほどじゃないのかも」

 

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