十一章 ③『もう一人の祟られぬ者』

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 マーちゃんがようやく神父さんから解放されると、あたしとマーちゃんは互いに歩み寄り、がっちりと抱き合った。


「よかった……マーちゃん、ほんとによかったよぉ」

「ごめんね、さっちゃん、心配かけたね」

「本当に大丈夫?なんともない?」

「うん。ちょっと貧血気味だけど、なんともないよ。それともどこか変?」

「ううん。いつものマーちゃんと同じだよ」


 お互いに笑いあう。それからマーちゃんは若君のところに歩いていった。

「あの、若君様、助けてくださってありがとうございました」

 マーちゃんはぺこりと頭を下げた。その若君はこの短い時間の間に、ほぼ完璧に再生していた。ただ、キモノだけはほとんどボロボロになっていた。


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「礼には及ばぬ。それよりちと見せてみい」

 若君はそう答えて、マーちゃんの首に手を伸ばした。指で顎の先をつまみ、伸びた首筋を注意深く眺める。


 マーちゃんはそっと目を閉じた。

 若君はまだじっと見つめている。


「これは……驚いたな」

 あたしもチラッとマーちゃんの首をみた。マーちゃんの首についていた傷はすっかり消えていた。いったいなにを驚くことがあるのだろう?治療が適切だっただけじゃないの?おじいちゃんか、神父さんの治療が?


 でもそうではなかった。


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……」

 若君が静かに告げた。


 マーちゃんは目を開いた。

「たたられぬ者?」

「ああ。よもや内羽の一族以外にそのような者がいるとは思わなんだ。いや、ほかにそのような者がいるとは信じられぬことじゃ」


 それから若君はあたしを見た。

「さつき、マーちゃん殿は、おまえと同じ、祟られぬ者だ」

 若君はマーちゃんの顎から手を離した。そしてすっくと立ち上がった。


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 マーちゃんがあたしに聞いた。

「ねぇ、たたられぬ者って、なに?」


 なんとなくみんなの前で説明するのは恥ずかしい気がした。じっさいみんなこっちをじっと見て、耳を澄ましている。


「吸血鬼にかまれても、吸血鬼にならない人のことなの。免疫みたいなものだと思うんだけど、すごく珍しいみたい……」


 今はそれぐらいしかいえなかった。でもマーちゃんならきっと全てを理解するだろう。体育館で若君に「血を飲ませません!」と宣言したのも聞いていたかもしれない。どちらにしてもあたしが若君に血を飲ませていたことを知るだろう。そしてどう思うんだろう?あたしのこと……

「そっか……あたしもさっちゃんと同じ……特別なんだね……」


 マーちゃんはそう言って、うれしそうにゆっくりとうなずいた。


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 そしてあたしも自分の感情が分からなくなった。いろんな気持ちがごちゃごちゃに絡まっている。


(マーちゃんがあたしと同じ……)


 なんだろう、この気持ちは?


 あたしは特別な存在じゃなかった……若君に血を飲ませられる、たった一人の存在ではなかった。


 つまりこれからは若君はマーちゃんの血を吸ってもいいわけだ。なにもあたしでなくてもいいのだ。それにマーちゃんと若君の方がよっぽどお似合いだし。


 なぜかあたしの胸はチクリと痛んだ。


 この気持ちはいったいなんなんだろう?

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