十一章 ②『マーちゃんの復活』
✚
「ところで神父殿……」
若君が神父さんを呼んだ。神父さんだけは一人、若君の横に立っている。
「なんデショウ?」
「ワシは少し体を休めたい」
「分かりマシた。奥の部屋、使って下サイ」
「では土床の部屋を使うぞ。ほれ、武器庫からの隠し通路を抜けた部屋じゃ。まだワシの棺桶は残っておるかな?」
神父さんがハッと驚いた顔をした。
「あの、ドーシテそれを知ってますか?」
「あたりまえじゃ。この教会はワシが友のために建ててやったものだからだ。歳はとっておるが、耄碌はしておらんぞ」
それを聞いて神父さんはさらに驚いた顔になった。それから立っていられなくなって、ステージに寄りかかり、肩越しにキリスト像を見上げた。
「まさか……この教会の伝承が真実だったとは……そうデスか……あなたは、やはり」
「そういうことじゃ。これで信じる気になれたか?」
「……わかりまセン。今、ワタシはすごく混乱しているのデス」
「頑固なやつじゃな。ワシの周りにいるのは頑固者ばかりじゃ」
若君はハッハッハッと殿様のように高らかに笑った。
✚
「ところで、皆の衆、しばらくここの護衛を頼みたい」
若君が信者たちに呼びかけると、みんなが武器を振ってそれに答えた。
「おおぉー!」
「ええぇー!」
なんとも感動的なシーンではあるけれど、実はちょっと頼りない。なにしろおじいちゃん、おばあちゃんばかりだから。
「それから……こやつらの処置を頼みたいのじゃが……」
若君が言ったのは、教会の中で気絶している四天王のことだった。まだみんな白目をむいて気絶している。でも再び目覚めたらすごくやっかいなことになるのは明らか。回復力も尋常じゃないし。
「折れた骨をつなぎ、縛り上げておけばよいのじゃが、誰かできぬか?」
✚
シーン……老人たちの元気も急にしおれてしまった。怖いのもあるだろうが、そもそも治療ができるわけがない。困ったなぁ、という空気が流れる……
と、その時だった!
「それはワシの仕事ですな!」
リンとした声が体育館に響いた。
「若君様、その仕事、ワシにおまかせ下さい!」
又兵衛じいちゃんだった。巻かれた包帯をシュルシュルとほどいてみせた。そこに何の意味があるかよくわからないけど、とにかく感動的にかっこいい登場だった!
✚
さらに驚きは続く!
じいちゃんの隣にはマーちゃんが立っていた。もう縛られていない。ちゃんと目覚めていて、自分の両足で普通に立っている。ちょっと青ざめているけど、いつも通りの、美人さんの、マーちゃんだった。
「マーちゃん!」
よかった……マーちゃん……また泣いてしまう。あんまりうれしすぎて涙がポロポロとこぼれ落ちてくる。
「マーガレット!」
神父さんもまた歓喜の声を上げて、膝からがっくりと座り込んだ。それからキリスト像を見上げ、胸で十字を切った。一度、二度、三度。それは初めて見る、神父さんが神に祈る姿だった。
✚
「パパ……」
マーちゃんも静かに喜びの涙を拭った。それはきっと父親が再び祈る姿を見られたせいだ。あたしもなんだか感動してしまった。
「パパ!パパ!」
マーちゃんは祟られなかった。吸血鬼にはならなかった。その声を聞いて、その姿を見て本当に安心する。
「オー、マーガレット!」
マーちゃんが近づいてゆくと、神父さんは立ち上がってマーちゃんを抱きしめ、それから脇に手を入れて軽々と抱き上げた。それからなんとも荒っぽく上下にブンブンと振った。あたしもやられた高い高いだ。
「よかった。ほんとによかったデス!」
「もぅ、やめてよ、下ろしてよパパ、下ろしてったら、恥ずかしいでしょ」
みんなの間からも笑いがわきおこった。
「パパはヘーキデス!」
「もう」
マーちゃんは泣きながら笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます