十章 ⑥『リターン オブ 藤原君』
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外に出たとたん、熱い風が吹き抜けた。
暗いはずの世界が、オレンジ色に輝いていた。
眼下で町が燃えていた。
炎があちこちで瞬き、黒い煙が夜空にもくもくとあがり、遠くで人々の叫び声があがるのが聞こえた。
それはまさに戦場だった。
そこに広がっていたのは地獄だった。
結局、藤原君はやめてくれなかったのだ……それは予想していたけれど、やっぱり悲しい気がした。裏切られた気がした。
そのときだった。
「よぉ、内羽じゃねぇか」
声が聞こえた。
教会を取りまいている林の中から……それは忘れようのない藤原君の声だった。
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「藤原君なの?」
分かってるのにそう聞いた。
「ああ。もちろん俺だよ」
声のした方を見ると、真っ暗な林の中に銀色の小さな光が見えた。全部で十ほどの小さなきらめきがチカチカと瞬いている。
「おまえのおかげだよ。この町はもうすぐ生まれ変わる」
「なにいってんのよ!どうしてやめてくれなかったの?」
「そんなつもりは最初からないからだよ。おまえ、ほんとにバカな」
「あたし、信じてたんだよ」
「それはおまえの勝手な思いこみだよ」
林の中に黒い輪郭が浮かび上がり、藤原君が姿を現した。その背後には四天王の姿もあった。ただみんなひどく血まみれだった。それに表情がますます獣じみていた。これって……退化してる?
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「あとは生き残りを片づけて終わりだ。ここと、いくつかの避難所、それから病院」
藤原君は残っている左手の指を折って数えた。
「もうこんなことやめてよ……」
「なぁ、考えてもみろ。俺たちは誰も殺してないんだぜ。みんな動いてるだろ?逆にあのサムライ一人を殺せば、それですべて終わるんだ。俺たちにとって、これこそハッピーエンドだと思わないか?」
「何がハッピーよ。何の意味もないじゃない!」
「もちろん意味なんてないさ。ただ俺の気持ちはおさまる。そこが重要なんだよ。おとしどころってやつだな…」
そう言って藤原君は笑った。
「……俺たちはこれから中の連中を皆殺しにする。まぁ厳密には誰も死なないけどな。ただ仲間になるだけだ。でもよ、内羽」
「なによ?」
「やっぱりおまえだけは逃がしてやるよ。おまえには借りもできたしな。だから逃げろ。今すぐここから立ち去れ」
「そんなこと、できるわけないじゃない!」
「だったら逃げるんだな!少しは……そう、何分かは長生きできるぜ」
あたしは教会に向かって走り出した。
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あたしは教会に飛び込むと同時にありったけの力で大きな扉を閉めた。それからカンヌキを差し込み、大きく息を吸い込み、出せる限りの大きな声で叫んだ。
「みんな逃げて!」
その場にいたみんなが一斉にあたしを見た。若君も、神父さんもあたしを見た。
「吸血鬼が来た!早く逃げて!」
信者の人たちが一斉に立ち上がった。そして辺りを見回し、逃げてきたはずが袋小路に追い込まれているのを知った。ざわめきとパニックが一気に膨れ上がってゆく。
これは逆効果だったか……冷や汗とともに思ったとき、若君の声が響きわたった。
「黙れぇい!」
その声の大きいこと。ズシンとお腹に響いてくるようだった。
「慌てずともよい!この城は頑丈じゃ!」
若君の言葉に騒ぎがぴたりと静まった。
「そうデス!みなサン、落ち着いて下サイ!この奥には頑丈な部屋がありマス。みなさん全員、入れる大きさデス。案内します。付いてきて下サイ!」
神父さんが大きな声で呼びかけ、ステージ横の小さな扉を開いた。
「こちらデス!みなさん、落ち着いてネ!」
それから信者の人たちは静かに避難を開始した。
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