十章 ③『神父の最後の希望』
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それからあたしはベンチに腰掛け、マーちゃんの治療が終わるのをひたすら待った。隣に芳子ばあちゃんが座ってくれて、あたしの手をずっと握っていてくれた。
若君は芳子ばあちゃんの持ってきた殿様服に着替えた。それですっかり落ち着いたのか、後ろのベンチで横になったままずっと静かにしていた。
じいちゃんと神父さんは、さらにいくつかの呪文と治療を繰り返し、最後に首に包帯をぐるぐるとまいて治療は終わった。
終わったけど、こんなんで本当に大丈夫なんだろうか?かなり心配だが、今は二人を信じるしかなかった。
そして当のマーちゃんはイモ虫のように毛布にスマキにされたままだった。
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「これで治療は終わりマシた……」
神父はパタンと本を閉じてゆっくりと立ち上がり、ステージから降りた。
「終わりマシたが……」
「ああ、あとはマーちゃん殿しだいじゃ。祟られるか、自分を保っていられるか」
若君は寝てなかったらしい。スッとベンチから起きあがってそう言った。それから傍らの日本刀を引き寄せ、もたれかかった。
「エエ。本にもそう書いてありマシた。実際、助かる確率はほとんどないとも」
神父は苦しそうに告げた。
「そんな!それじゃぁ、意味ないじゃないですか!」
と思わずあたし。言わずにいられなかったのだ。
「仕方ないデス。仕方ないんデスよ……神がいるなら……」
そう言いかけて神父は口をつぐんだ。
あたしは悔しくって若君をみた。若君ならもっと確実な方法を知っているんじゃないかと思って。でも若君はじっとあたしを見つめ返しただけだった。
「でも最後の希望、ありマス」
メッシュ・メイ神父はそう告げて、若君をじっと見つめた。
「ほぅ」
若君も静かに神父を見返した。
二人の間になにかが流れて始めていた。
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「トコロデ……あなたが、若君さんデスね?」
「いかにもそうじゃ」と若君。
「マーガレットから、あなたの事を聞きマシた。ベリーハンサムだって。すぐ分かりましたよ」
「はんさむ?」
若君は少し顔を傾けて通訳を求めてくる。でも目線は神父さんからはずさない。
「かっこいい、ってことです」
あたしはまたササッと通訳。ま、ほとんど日本語なんだけど。
「アナタ、わたしの若い頃そっくりデス」
いや、それは嘘。神父さんも確かにかっこいいけど、顔はバリバリの外人さんだから。
「マーガレットが一目ぼれするのも分かりマス。でも、娘はゼッタイ渡しませんよ」
「いったいなんの話じゃ?」
「あなた、ヴァンパイアデス。あなたがオリジナル。ヤカタです。あなたを殺せば、マーガレットは助かります」
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