八章 ③『若君のお着換え』

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 それから父さんが若君を和室に連れていった。障子の戸を閉めると、自分の部屋からスーツやシャツ、ネクタイを運び込んだ。と、しばらくして出てくると今度は、新しい靴下や下着類なんかを運んでいった。


「なんじゃこれは?」

「ネクタイです。一応これを首に巻いていただいた方が……」

「息苦しいな」


 障子の向こうから若君の声と父さんの声がなにやら聞こえてきたが、なかなかうまくやっているようだった。しばらくして、障子の向こうから若君の声が聞こえた。


「着替えたぞ、これで文句はないな」


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 オープンセサミ。障子戸がバンと開かれ、姿の若君が現れた。


 ほぇー。とみんなの口から感嘆のため息が漏れ出した。ボタンばあちゃんが箸とご飯茶碗を落とす音が聞こえた。ガタン、コロコロコロ。


 みんな呆然と若君に見とれていた。


 若君がカッコいいとは分かっていたけど、ここまでとは予想しなかった。もう超絶美形、ファッションモデルか俳優か、この人のかっこよさはなんだろう?いつもの父さんのスーツが、一流ブランドのスーツのように見えるのは、なぜなんだろう?


「す、すごいわねぇ」

 母さんも思わずそうつぶやいた。


「う、うん」

 あたしまであっけにとられてしまった。


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「窮屈じゃな」

 若君はしきりに肩の辺りを気にしていた。

 それからさらにネクタイを緩めた。

「息苦しい。なんともひどい格好じゃ」


 あたしたちはみんな首を横に振った。そんなことないです、かっこいいです。


「まぁよいわ。これならよいな?さつき」

「え、ええ、はい」

 あたしは思わずそう返事してしまった。

「ではゆくぞ」


 若君は床から刀を拾い上げた。それから、刀をどこに差そうかと迷った。ジャケットをまくってベルトに差そうとしてみたが、どうもきついらしい。その様子はなかなかほほえましい感じがした。

 はっ!感心してる場合じゃない!


「若君、刀は置いていってくださいよ」

「こいつを、置いていけと、申すか?」

 若君はまたむくれた。この人はいつもそうだ。指図されるとすぐ怒り出す。まったく殿様ってやつは……


「当然です。危険なことはなにもないですから、置いていっても大丈夫ですよ」

 若君はかなり迷っていた。だがあたしも譲るつもりはない。若君はふぅーっと息を吐き、あきらめたように刀を床に置いた。


「えぇい、わかった!置いていく。これでよいな!さっさとゆくぞ!」

 若君はそう言うとさっさと歩きだした。


「はい。あ、待ってください」

 あたしは鞄を胸に抱くと、急いで若君を追いかけた。

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