第八章 若君の登校
八章 ①『遅いぞ、さつき』
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翌朝の月曜日。
あたしは携帯の目覚ましの音ともに、パチッと目を覚ました。なんかすごく深く寝たみたいで、頭もスッキリ、おめめはパッチリ、体には妙にエネルギーがあふれていた。そういえばここんとこ、あたし毎朝元気いっぱいで目覚めてる。
でも、あたしはなんとなくそのままベッドにねそべり、天井を眺めていた。
「今日から学校か……」
もちろんうれしくはない。むしろ逆。
「……しかもテストがあるんだった」
マーちゃんが持ってきてくれたノートも見たけど、若君のことが気になって、頭にはなんにも入らなかった。どうせテストは悪いに決まってるし、今さらどうなるものでもない。人間あきらめも大事。
「それより、若君だよなぁ……いったいどこ行っちゃったんだろ?」
結局あの日から、若君は消えたままで、なにも聞けないままでいた。
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「そういえば……学校に行くって言ってたような……」
若君の言葉『わしも学校へ行くぞ』と、その後の笑い声を思い出した。
約束では今日、学校に一緒に行くことになっていた。でも本人がいないんだから、しょうがないだろう。でもアタシ的にはそれでよかった。実際に来るなんて言いだしたら、大変なことになっていたろうから。なにせあの顔、あのスタイル。学校中が大騒ぎになるに決まってる。
そういう意味では、いなくなってくれて喜ぶべきかもしれない。でも吸血鬼問題は解決しないままだ。むしろ姿を消していることで、ますます怪しく思ってしまう。
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「それにしても困ったなぁ」
なにに困るっているのか、今一つ自分でもよく分からないんだけど、とにかくモヤモヤが胸にひっかかっている。
何度かバタバタとベッドの上で転がっていたが、再び携帯が鳴り出した。寝過ごし防止の二回目のアラーム、遅刻のデッドライン。現実逃避してる場合じゃなかった。
あたしはタオルケットを跳ね上げ、ササッと制服に着替え、鞄に教科書とノートとペンケースを放り込んだ。
チラッとだけど、若君の様子を見に行こうかと思った。今朝は帰ってきてるかもしれない。でも、いたらいたで、学校に行くなんて言い出すかもしれないし、ここは静かに家を出ることに決めた。
部屋の扉をそっと開けて廊下を見回し、それからつま先立ちで、とにかく音を立てないようにして、居間に降りていった。
簡単に朝ご飯をすませて、お弁当をもらって、そのまま家を出てしまおう……
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「おはよぉ」
そっと居間の扉を開ける。
「遅いぞ、さつき」
若君がそこにいた。上座にデンと座り、センスでパタパタと顔をあおいでいる。若君はいつもの正装、つまり殿様風のキモノをばっちりと着ていた。しかもお出かけのせいか、いつもよりもふんだんに金色の糸が使ってある豪華な着物だった。
「遅かったなさつき。さ、ゆくぞ」
パン、とセンスを畳み、さっそく立ち上がった。
……ちっ、忘れてなかったか……
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