七章 ⑨『運命の一夜』
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翌日は日曜日だった。
あたしはいつものように目覚め、みんなでお昼ご飯を食べた。
しばらくして、マーちゃんからメールが入った。
『今パパと一緒。ナナちゃんの家族がみんないなくなってる。
たぶん旅行だってパパ。もちろん信じられない。
でも今はこれ以上、どうにも出来ないみたい』
あたしは不安な気持ちでそのメールを読んだ。でも肝心のナナちゃんがいないなら、どうしようもない。なんか全ての現実感がするりとぬけ落ちていくような感じがした。全てが妄想か、白昼夢だったような。
それからコンビニまで歩いていって、お菓子を買ってきて、自分の部屋で食べた。それからマーちゃんの持ってきてくれたノートのことを思い出し、月曜日のミニテストのために少し勉強した。
そうしているうちに三時がすぎ、四時が過ぎた。
あたしはまた少し緊張して若君がやってくるのを待った。ドアがノックされるのをじっと待った。
だがいつまでたっても、そのドアがノックされることはなかった。
部屋がどんどんと暗くなり、月が昇り始めても、若君はやってこなかった。
そしてあたしは家族みんなで夕食をたべ、お風呂に入り、その日は早めに自分の部屋に戻った。
それでも落ち着かなくて、また若君の部屋をのぞきにいったけれど、やっぱり若君はいなかった。
まるで忽然と消えてしまったようだった。
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「若君、どこへ行っちゃったんだろう?」
いなくなってしまうと、なんだか寂しい気がした。そして自分がそんな風に思ったことがまた驚きだった。
なんか偉そうだし、上から目線だし、邪魔でメンドクサいばかりの人だと思っていたんだけど、いなくなるとやはり寂しく感じるのだった。
そして二人で毎日のように歩いた、庭の散歩の時間を懐かしく思い出した。
若君は散歩の時だけは、いつもリラックスして、とても楽しそうにしていた。いつも小枝を拾っては、剣のように持って、いろんな植物や動物をさしてはその名を呼び、いろんなことを教えてくれた。
「ホントどこ行っちゃったんだろう?もう、戻ってこないのかな?」
そして夜は更けていき、あたしは布団の中にもぐりこんだ。
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明日は久しぶりの学校だ。そういえば若君が学校に来るって言ってたけど、本当にくるつもりかな?
朝には帰ってくるのかな?そもそも吸血鬼が朝から日中に出ても大丈夫なのかな?それより誰かの血を吸ったのか聞かないとなぁ。怒り出すかなぁ?
つい、いろいろと考えてしまう。でも、全ては明日になれば分かること。逆に明日にならなければ分からないことばかりだ。
目を閉じると、引力のように眠りに引き寄せられた。
そういえば藤原君の言ってた期限は今日だった。
今さらそれを思い出したが、あたしはそのまま吸い込まれるように眠りに落ちた。
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そして、この夜を境に全てが一変する……
穏やかな日常は消え、不安の全てが現実と化し、全ての悪夢が街の中を彩る。
闇の中に身を隠していた悪意が姿を現し、夜の訪れとともに街を蹂躙し、襲撃と追撃と決戦の一日がはじまる。
この日を境に、水無月町は穏やかな田舎町から、凄惨な戦場へと姿を変える。教会が学校が病院が、この町の全てが血塗られる。
だがこの夜のあたしは、疲れはて、静かに眠りに落ちていった。
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