七章 ⑧『消えた若君……』
✚
どうしよう?どうしたらいいんだろ?なんて切り出そう?
あたしは部屋に引き上げてから、もう何度目だろう、そう考えた。昼寝したせいか、緊張しているせいか眠れなかった。そして夜中の一時を回ったところで、また同じことをグルグル考えていることにイライラがつのり、あたしはついに起きあがった。
「もうダメ!」
あたしってのんびりはしてるんだけど、これで白黒はっきりつけないとダメな性格なのだ。覚悟を決めてジャージの上下に着替えると、若君の和室へと階段を下りていった。
もう先延ばしには出来ない!
ええい、とにかく対決だ!
✚
「夜遅くにすみません」
あたしは若君のいる客間の前、庭のぐるりの廊下から、ふすま越しに声をかけた。雨はすっかり上がり、雨雲も消え、今は青い夜空にすっきりとした月が昇っている。
「あの、どうしてもお聞きしたいことがあってきました」
やっぱり若君はいないのかな?分かんないけど、じっと待つ。でも出てこない。
「お聞きしたいことがあってきました」
もう一度、さっきよりはちょっと大きな声でそう言った。それからふすまの向こうの気配に耳を澄ます。
やっぱりいないみたいだ。寝てるとは思えないんだけど……
✚
「あの、ちょっと失礼しますよ」
あたしはそう言ってから、ふすまに手をかけた。もし中にいたら、たぶん怒られるだろう。でも返事をしないのがいけないのだ。そのまま静かにふすまを開けた。
ガラーンとしていた。真っ暗な部屋の中に静かに月の光が射し込む。部屋の中に若君はいなかった。ただ畳が並んでいるだけ。そして上座の板の間にあるはずの、日本刀も消えていた。
やっぱり出かけてるんだ……
「失礼しました」
一応そう声をかけてから、もう一度ふすまを閉めた。
やっぱりいなかった。たぶん出かけているのだ。
でもどこへだろう?
まさか血を吸いに行ったのかな?
✚
あたしは部屋に戻り、家の中の気配に耳を澄まし、若君が帰るのをしばらく待っていたが、夜が明ける頃には再び眠ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます