七章 ⑥『藤原君の警告』

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 あたしは教会から歩き出す。

 その敷地を出るときにもう一度教会を振り返る。


 お城か……マーちゃんの言うとおり、ここは教会というよりも、お城という感じだった。それも中世ヨーロッパのお城。戦うための砦だ。言われてみれば、そんな気がする。


 もう一度マーちゃんに手を振り、急カーブを曲がると、もうマーちゃんの姿も教会も見えなくなる。


 日が暮れないうちに戻ろうと急いで歩く。マーちゃんのお母さんが事故にあったという崖を急いで通り過ぎる。誰もいない、くねくねと曲がる灰色の砂利道。右手には水無月町の全体が見えている。中央には川、それを取り巻くように田圃と畑が広がり、下流の方に灰色の住宅街がまとまっている。


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 あの町の中で静かに吸血鬼が増えている。チチチ、と鳴く『祟られた者』たちが、ロボットのように今までと同じ生活を繰り返している。そして夜になると牙を剥き出し、となり近所の人たちを襲って仲間を増やしている。


 ま、半分は想像だけど。


 そしてあたしは再び考える。


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 あたしは若君と対決しなくちゃならない。

 若君に直接聞いてみなくちゃならない。


 若君は誰かの血を吸ったのか?

 それが原因でこの騒動がはじまったのか?

 騒動を止めるにはどうしたらいいのか?


 ひょっとしたら若君のせいじゃないかもしれない。

 その可能性も十分にある。というか本音を言えば、やっぱり若君とは思えない。


 それでもやっぱり、若君のせいかもしれない。それなら、最悪のシナリオは若君と敵対することだ。


 でも若君と戦うなんてことは、やっぱり無理だ。どう考えたってあたしに勝てるはずがない。勝ち目は全くない。


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 そうなれば、あたしができることはただ一つしかない。それもたぶんあたしにしかできないこと。


 それは、


 あたしの血の全てで、若君の渇きをとめ、他の人の血を吸わなくていいようにすればいい。というか方法はそれしかない。


 あたしの血だけで若君の渇きが癒せるかどうか分からない。でもそれがダメだとしても、あたしに出来ることはそれだけ、それしかないし、それしかできない。


 山道をとぼとぼと下りながら、あたしの心の中で決心と覚悟がゆっくりと固まっていった。今夜、


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 そのときだった。

「……ウチハ……」


 男の声が聞こえてきた。それだけで背中にゾッと恐怖が流れ、あたしはビクリとして立ち止まった。


 ありえない。ずっと狭い一本道だった。誰ともすれ違わなかったし、教会にだって誰もいなかった。それにその声は神父さんの声じゃなかった。誰もいるはずがない……

 あたしは振り返った。道の後ろのほう、少し離れたところに、黒い服の、背の高い男が立っていた。


「ウッス」

 それは藤原君だった。離れていてもすぐに分かった。逆立てた短い金髪、ダボダボのズボンに、短めの学ラン。つり上がった切れ長の目に、片側をゆがめて笑う薄いくちびる。今は左手をポケットに入れて、少しハスに構えて立っている。なんか独特の凶暴さみたいなものが伝わってくる。


「藤原君?」

 分かっているのにそう聞いた。なぜここにいるのか、どうやってそこにいるのかもわからなかったけど、知ってる人の顔で少しほっとした。でも近づくようなことはしなかった。苦手なタイプだし。


「ウチハ、おまえだけは助けてやる」

 藤原君は静かにそう言った。


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「え?」

 もちろん意味が分かんない。


「おまえ、静香の見舞いに来てくれたろ。だからおまえだけは助けてやる」

「え?」

 バカみたいだけど、それしか言葉がでてこない。それからやっと、


「あ、吉永さんのことでしょ。父さんがね、よくなってきてるって言ってたよ」

「ああ。知ってる」


 ちょっと距離があったから、お互い声を張り上げるような感じで話している。でもお互いにそれ以上近づこうとはしなかった。


「ホントよかったよね!」

 藤原君は頭の後ろをクシャクシャっとなでた。ちょっとイライラしてるみたい。


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「おまえ、やっぱりめんどくさい奴だな」

 そう言われると、ちょっと傷ついたりもする。男の子のこういう乱暴な言い方は、けっこうグサッと刺さる。


「あ。ごめんなさい。しゃべりすぎたね。そのプライベートなことなのに、無神経だったよね……」

「あのな。とにかく、あしたまでにここを出ろ。荷物をまとめてこの町から出てけ」


「なんで?どうしてなの?」

「あのなぁ、めんどくさいんだから、説明させんなよ。まぁ、とにかく言ったぞ。チャンスだけはくれてやったんだ。おまえの家族にも世話になったかんな……」


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「あのさ、そんなこと急に言われてもさ……」

「うっせぇよ!とにかくおまえの家族ミンナで逃げろ。急げよ」


 藤原君はまたいらいらと頭をなでた。それからお尻のポケットに手を入れた。取り出したのは二つ折りの黒い財布だった。それをスッとあたしに投げてよこした。財布はゆっくりと放物線を描き、あたしの目の前に落ちてくる。

「それやる。好きに使え」


 あたしは地面に落ちる前に、あわててそれをキャッチする。手の中でバウンドしたけど、なんとかキャッチした。


「あの……これ」

 藤原君を見上げ、そう言いかけて、それ以上言葉が出てこなかった。


 姿


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