七章 ⑤『吸血鬼退治の城』
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「さっちゃん、どうかした?」
マーちゃんに声をかけられて、あたしはハッと我に返った。
若君のことを考えて頭がいっぱいになっていた。気づくと、神父さんが拳に顎を乗せ、まっすぐあたしを見つめていた。まるで心の中まで覗かれているような、鋭い視線だった。
「ごめんごめん、なにを言いたいか分かんなくなっちゃった」
「イイエ、分かりましたよ、サツキさん。オーケーです。とにかくわたし自身で確かめまショウ。明日、マザキさんが教会に来なかったときは、ワタシがマザキさんのとこ、行きまショウ」
「ありがとうございます!」
うれしくなってあたしは勢いよく頭を下げた。マーちゃんまで隣で頭を下げた。
「マーガレットもオーケーデスか?」
「うん。ありがとパパ」
「では話はこれでオワリ。さ、ハーブティー飲んで。すっかり疲れたデスからね」
「はーい」
二人でハモって返事すると、自然と笑みがこぼれた。
とにかく一歩前進だ。これで神父さんが加わってくれれば、この事件も一気に解決するはずだ。まだ湯気を立ててるハーブティーを飲むと、体だけではなく心までがふんわりと軽くなった。
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「今日はありがと」
マーちゃんが教会の大きな扉のところで、あたしにそう言った。マーちゃんに借りたジャージを着て、バッグにはあたしの着替えをつめてある。外はそろそろ夕暮れだった。といっても雲が厚く、薄暗いだけ。
「こっちこそ。それより明日、大丈夫?ついていかなくて平気?」
「うん。パパがいるからね。でも帰ってきたら絶対メールする」
「うん。そうして。あたしもナナちゃんのこと、すごく気になるし」
「わかった。あたしね、今回のことでまたパパが信仰を取り戻してくれそうな気がするの。きっといい機会になると思うんだ」
「そうなるといいね。でもさ、それよりホント気をつけて。相手は吸血鬼なんだから」
「うん。でもそれなら大丈夫……」
そこまで言って急に身をかがめ、それからあたしの耳元にそっとささやいた。
「……ここにはさ、秘密の部屋があるって言ってたでしょ。そこにはね、吸血鬼退治の道具や武器がいっぱいそろってるのよ」
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「それ本当なの?」
あたしもささやきかえす。
「うん。よその教会のことは知らないけど、ここにはそういうのがいっぱいあるのよ。あたしの推理では、過去にもこういうことがあったんだと思う。吸血鬼と人間の戦いがね。たぶんこの教会は吸血鬼退治の城だったのよ。武器だってすごい量があるんだから」
あたしはうなずく。また考えに詰まって、感情に詰まって、言葉に詰まってしまう。それからやっと言う。
「とにかく気をつけてね」
「ありがと。さっちゃんも帰り道気をつけてね。送ってかなくてごめんね」
「へーき。じゃあね」
「うん。メールするからね」
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