七章 ③『神父さんの過去』
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マーちゃんの後について、中央の通路を歩いてゆくと、一段高くなったステージに突き当たった。体育館と同じような感じで、学校にもある説教壇のようなものが中央にある。違うのはその背後にはりつけにされたキリスト像があることで、これだけは生々しくてけっこう不気味だった。
「こっち」
ステージを右側に回り込むと、そこに扉があった。これはふつうのサイズのふつうの扉。それを開くと、細い廊下が伸びていた。
「なんか地下牢みたいでしょ」
石を積んでつくられた、狭くて天井の高い廊下、それを進んでいくと、左側に木製の扉がいくつか連なっているのが見えた。それらを通過して一番奥まで行った部屋、ドアのプレートに【Margaret】と記されたところ、そこがマーちゃんの部屋だった。
「あたしの小さなお城へようこそ」
それからマーちゃんは、やっぱり体重をかけて、扉を引き開けた。ギギギっと。
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マーちゃんの部屋はあたしの部屋と大して変わらなかった。シングルベッドに勉強机、テレビと本棚に、サイドテーブル。カーテンやクッションなど、インテリアの趣味もだいたいあたしと同じ。というかこの田舎ではあまり選択肢がないのだ。
「うーん、なにがいいかな」
マーちゃんは洋服ダンスをあけ、いろいろと迷っていた。
「なんでもいいよ」
「実は、ジャージばっかりなの。それかスーツなんだ」
「ジャージでオッケー」
あたしの部屋と大きく違うのは、フレームに入れた写真があちこちに置かれていること。さまざまな年代のマーちゃんや、パパとママ、三人で写った写真が、ブロマイド風からスナップ写真までフレームに入って、いっぱい飾ってある。この辺はなんか妙に外人さんっぽい感じがする。
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と、あたしは一枚の写真に気がつく。
マーちゃんがまだ幼稚園生くらいの時の写真。マーちゃんを挟んで、ママとパパが教会の扉の前に並んでいる。マーちゃんのママもやっぱり美人だった。そしてパパは痩せていた。もうガリガリというか、枝のように痩せていた。ほとんど別人。こっちの方がずっとかっこいい。
「それね、三人で撮った最後の写真なの。まだパパもほっそりしてるでしょ」
マーちゃんはあたしの着替えのジャージを手にして、あたしのすぐ隣に立った。
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「ママはね、事故にあったの。嵐の日に、病気だった信徒さんのところへお見舞いに出かけて、その帰り道に地滑りに巻き込まれちゃったの。さっき、あがってきた坂の途中のところ、教会のすぐそばでね」
あたしはマーちゃんからその話を聞くのは初めてだった。お母さんがいないのは知っていたんだけど。
「そのときは、パパも一緒だったの。二人で傘をさして歩いてたんだって。そうしたら急に崖が崩れてきて、一本の大きな木がママのところに倒れてきたんだって。
パパはなんとかその木をどかそうとしたんだけど、すごく大きな木で、一人で動かせるような重さじゃなくて。結局ママは助からなかった。
それからなんだ、パパが神様を信じなくなって、あんな風に体を鍛えるようになったのは。
人を救えるのは神様じゃなくて、自分の力だけなんだって」
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そしてマーちゃんはあたしにジャージを渡してくれた。それからクルッと後ろを向いてジャージに着替えた。
あたしはなんとなくかける言葉が見つからず、無言でジャージに着替えた。
神父さんにはそんな過去があったんだ……気持ち悪いなんて思って悪かったな。
神父さんは神父さんで必死だったのだ。バラバラになりそうな心を抑えるために、きっと来る日も来る日も体を鍛えたのだ。
「さ、パパのとこに行こう」
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