七章 ②『メッシュ・メイ神父』
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メッシュ・メイ神父。年は父さんと同じくらいのはずだけど、見た目はかなり若い。それはもう見事な金髪に青い目。すこし顎が尖りすぎだし、鼻も鋭くて高いけれど、とにかくハンサムだ。白いスーツと白い帽子とかが似合いそうな上品な顔立ち。
なのに……である。マーちゃんのパパも残念な感じの人だった。それはその異常な筋肉のせいだった。もう気持ち悪いくらいマッチョなのである。
膝下を切ったムチムチのジーンズ、上半身には伸びて張り付いたピタピタの白いタンクトップ、髪は汗でぼうぼう、髭も無精ひげのまま。ワイルドとも言えるが、どちらかというと気持ち悪い。下まつげが異様に長くみえるのもまた気持ち悪い。というか濃い。
ちょうど今は自分の背丈ほどもある、平らな墓石を持ち上げている最中だった。太い腕がパンパンに膨れ上がり、血管がミミズのように浮き上がり、盛り上がった胸の筋肉はタンクトップをビリビリに破きそうだった。
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「あんまり神父らしくみえないでしょ?」
マーちゃんがこそっと耳元に付け加えた。
「まぁね……ちょっとイメージと違うかも」
「マーガレット、お友達デスか?ん、ひょっとしてアナタは……」
神父は持ち上げていた重そうな石をズシンと土の上におろすと、首に巻いたタオルで手を拭きながら近付いてきた。なんかそれだけでものすごい迫力がある。しかもこれ以上ないくらいの晴れやかな笑顔で、今にも抱きつきそうな幸せオーラを放ってズンズンと近づいてくる。
「アナタが、サツキさん、デスね!」
「あ、そうです。どうも初めまして」
「ドゥーモォ、初めまして!」
神父はそう言うなり、あたしのわきの下に手を入れ、そのまま軽々と持ち上げた。ブワッといきなりものすごく高い視点。まるで空を飛んでいるみたい。神父さんはかなり背が高いし、さらに手を伸ばしてるものだから、軽く二階建てぶんくらいの高さがあった。
それにしても、なんて気持ちがいいんだろう。高いところにある空気は、なんか澄んだ感じがする。
に、しても『たかいたかい』なんてされたのは何年ぶりのことだろ?
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「コホン」
と、マーちゃんの短い咳払いが響き、コホンコホン、と何度か続けたところでようやく神父が気がついた。
「あのねパパ、子供じゃないんだから、そう言う挨拶は……」
「オー!そうデシたね!シツレイ、ごめんなさいネ」
ようやく地面におろしてもらえた。
「早かったデスね。今日はどこに行ってたデスか?」
「だから、マザキさんとこに行くって言ったでしょ。吸血鬼の証拠を見つけに行くって。聞いてなかったの?」
「オー、そうでしたそうでした。パパはすっかり忘れてマシタよ。ナゼでしょうか、墓石がうごいてマシタよ、それ直してたのデス」
その口調からすると、やはり神父は吸血鬼のことを信じていないようだった。それも頭から信じていないようだ。
「ま、とにかく着替えてイラッシャイ。パパがあったかいハーブティー、煎れマス」
「ねぇ、それより聞いて、」
「ノーノー、ダメデス。着替えがサキ」
ムムム。マーちゃんが悔しそうに口をつぐんだ。理不尽な親に子供が我慢するのはどこの家庭も一緒らしい。
「わかった。さっちゃん、来て」
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あたしたちは教会の正面に戻った。
「入り口は、ここしか、ないの」
マーちゃんは体重をかけて巨大な扉を開いた。ギギギとさび付いた音を響かせて巨大な扉が開いてゆく。少し隙間ができたところで、体を横にして中に入る。
「とにかく重くって……」
それから体重をかけ、手と足を突っ張ってようやく扉を閉めた。
「ふぅ。ここがあたしのうち」
ずらりとベンチが並んでいた。五人がけの木のベンチが、横に四列、奥に向かって二十列ほど並んでいる。ベンチの間には広い通路がとってあり、その床には大理石みたいな磨かれた石が敷いてある。とにかく広くて、歴史の重みが圧倒的に迫ってくるようだ。しかもそれだけじゃない。この教会はなにより、
「……綺麗……」
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感動したそのままが、つぶやきになって漏れる。
石の床からは何本もの石の円柱が突き出し、複雑なアーチを描いて高い天井を支えている。その天井には、本物の空のような青が広がり、空に浮かぶ天使や神様の姿が描かれていた。まさに壮観、そして荘厳。
さらに壁にはキリストの生涯を描いた巨大な絵が何枚も連なり、その絵の上、高い位置にある窓にはステンドグラスが連なっている。そのグラスからもれる様々な色彩が、白く巨大な空間を幻想的に彩っている。
「なんか神様を信じたくなる気持ちも分かるねぇ」
それほどに美しい、圧倒されるような教会だった。
「でもね、パパには届かないみたい」
マーちゃんはそう言って、寂しそうにほほえんだ。
「あたしの部屋は奥にあるの。行こう」
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