六章 ④『ピッキングはおまかせ』

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 ジャキン!懐中電灯付きのヘルメットをかぶり、

 ジャキン!聖水入りの水鉄砲を肩からさげ、

 ジャキン!白木の杭をジャージのズボンにはさみ、

 ベトベト!ニンニクのペーストを顔と髪に塗った…


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「うげぇ……」

 ナナちゃんが真っ先に声を上げた。


「うげ……」

 あたしも同じく声を上げた。


「これだけ臭えば、ばっちりね!」

 マーちゃんだけはなんともなかった。


「じゃ、行くわよ」

 それからマーちゃんを先頭に、あたし、ナナちゃんの順にそっと階段を上がっていった。ナナちゃんの話では、お母さんの寝室は二階の突き当たりの部屋だという。階段をそっと上がり、狭い廊下を特殊部隊のように音もなく進んでゆく。


「ここです」

 ナナちゃんがそうささやいて、あたしたちとは反対側、扉横の壁に背中を寄せた。そして水の入ったポリバケツを慎重に構えた。


 マーちゃんが無言でうなずく。それから背後のあたしを振り返り、同じくあたしに向かって無言でうなずいた。さぁ突入するわよ。オッケー。あたしもうなずいた。それからマーちゃんがそっとドアノブに手を伸ばし、ゆっくりと回していった。


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「あれ……」

 マーちゃんはもう一度、ゆっくりとドアノブを回していった。

 手はつるつるとドアノブをなでるばかりで、まったく回らなかった。


「鍵がかかってる……」

 マーちゃんは泣き顔でそう伝えてきた。知らなかったの?あたしも唇の動きで伝える。マーちゃんはコクンとうなづいた。だって、中から鍵をかけてるって、自分でそう言ってたよ?と、ささやくと、マーちゃんはがっくりと肩を落とした。


「メンボクない……」

「合い鍵とかない?」

 あたしがナナちゃんに聞くと、ナナちゃんは首を横にふった。そうだよね、あったら持ってきてるもんね。


 むむ。仕方ないな。


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 あたしはポケットからがま口の小銭入れをとりだし、中から一円玉を取り出した。


「開けられるの?」

 マーちゃんはあたしの耳に手をかぶせ、小声で聞いてきた。


「家の中の鍵って、たいていこれで開けられるのよ。知らなかった?」

 あたしもマーちゃんの耳に直接ささやいた。それからドアノブに向きなおり、鍵穴の溝に一円玉を当てた。サイズはぴったりだ。それからそっと一円玉を回す。


 カキン……バネのはずれる音が響いた。


「すごい!さっちゃん天才!」


 いよいよ突入開始だ。

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