六章 ②『いきなり襲撃?』

   ✚


 あたしたちはまず学校の方に歩いていき、途中から東側にそれて住宅街に向かった。町の中心部からは少しはずれているエリアだが、一軒家の建物が多く、ちょっとした高級住宅街になっている。

 どの家にも駐車場と庭があり、家の造りも新しい。ちなみに路面もアスファルトに変わる。


「なんかこういう家っていいね」

 とマーちゃん。

「うちの教会はスゴい古いからさ、なんかこういうきれいな家にあこがれちゃう」


「あ、わかる。うちの家も古いし、なんか広すぎるから、こういうのって便利そう」


「それにしても、静かだねぇ」

 そういえばやけに静かだ。どの家もひっそりと沈みかえっている。通りに出ている人も全くいない。


   ✚


「まだ早いからじゃない?土曜だし」

 そうは言ってみたものの、やっぱり違和感はある。散歩中の老人とか、ペットの散歩をしている人とか、庭の水まきをしている人とか、そういう人がぜんぜんいない。

 どの家も不気味に沈黙している。

 その腹に秘密を抱え、静かにあたしたちを見つめている。


「ううん。これ、やっぱり変だよ」

 マーちゃんがきっぱりと言った。


「うん。変だよね」

 あたしも正直にうなずいた。


   ✚


「あ、ここだ」

 やがてマーちゃんは一軒の家の前で立ち止まった。


 表札には『真崎』と出ている。まだ新しい家だ。

 二階建てで屋根は青い。駐車スペースはあるけど車はなく、かなり広い庭がある。庭は半分が花、半分は野菜が植えられている。

 まぁ、このあたりでは普通の家だ。


「さてと、まずは……」

 と言いかけたとき、


   ✚


「は!」


 

 一瞬で全身に汗が噴き出した。どうやって身を守っていいのかわからない。

 それから恐怖。そしてあきらめ。だめだ。なにも出来ない。

 ただ殺されるだけだ。

 いきなりこんなことになるなんて!


 人影は両手を開き、飛ぶようにして迫ってくる!


 そして、あたしの横をさっとかすめて通り過ぎ……

!」

 と、マーちゃんに抱きついた。


 それは『菜々子ちゃん』だった。おさげ髪の、ちょっと背の高い小学生の女の子。


「ふぅ……」

 なんか緊張しすぎたみたい。

 すでに汗びっしょりだし、気づいたらロザリオをギュッと握りしめていた。


   ✚


「おはよう、ナナちゃん」

 とマーちゃん。

「おはよう。ほんとに来てくれたんだね」


「だって約束したでしょ?」

「でも、ほんとに来てくれると思わなかったの」

 それからナナちゃんはくるりとあたしの方をみた。


「あれ?シンちゃんのお姉ちゃん」

「おはよう、ナナちゃん。あたしね、マーちゃんの友達なの」

「そっかぁ、おねえちゃんも来てくれたんだね。ありがと」

 ナナちゃんはペコリと頭を下げた。


「で、お母さんは相変わらず?」

 マーちゃんが聞くと、ナナちゃんの顔が急に寂しそうになった。

「今も部屋に閉じこもってる」


「わかったわ。さっそく行きましょう」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る