第六章 忍び寄る影
六章 ①『バスターズの出発』
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明けて翌朝の土曜日。窓から外を見ると、今にも雨が降りだしそうな、灰色の曇り空がどんよりと垂れ込めていた。
前の晩はあまりよく眠れなくて、ほとんど徹夜状態で目が覚めた。
それはたぶんマーちゃんも同じはず。
二人で一晩中メールのやりとりをしてたから。
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『若君って、ご家族の方なの?』
『うちの親戚のお兄さん』
『いいなぁ。そういうの』
『ね、それより本当に吸血鬼のしわざだったらどうする?』
『とりあえずパパに相談。神父だからね』
『だよね。エキスパートだもんね』
『それが、ちょっと問題ありなの』
『なんで?』
『パパ、あまりそういうの信じてないの。ていうか神様もあまり信じてないかも』
『えっ。それって大丈夫なの?』
『だから証拠が必要なの。それよりさ、若君さん、すごくかっこいい人だね』
『でもすごく偉そうなんだよ。確かに顔はかっこいいけどね』
『いつもキモノを着てるの?刀も?』
『あの人、時代劇のマニアなの。とにかく変わってる人』
『あたしも時代劇だいすき!』
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あたしが眠れなかったのは、今回の吸血鬼騒動が若君の仕業じゃないかと心配していたから。そのことを考え出すと、胸がざわざわしてどうにも眠れなかった。
マーちゃんも、いくら教会の娘とはいえ、吸血鬼のことを実際に知っているわけじゃない。頼みの綱はマーちゃんのお父さんの神父さんだったんだけど、メールから見る限りあまりあてには出来ないようだった。
こんなんで、大丈夫かなぁ……と、思っていたところで、メールの着信があった。
『着いたよ。起きてる?』
『もちろん。今行く』
あたしは通学用のスポーツバックを持ち上げ、そっと家を出た。
時刻は朝の十時ちょうど。玄関を出たところにマーちゃんが待っていた。
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マーちゃんは今日もまた美人さん台無しのスゴい格好だった。エンジ色のジャージの上下に白いスニーカー、そして登山用みたいな巨大なリュックサック。頭には極め付きの白い通学用ヘルメット。
でも人のことはいえない。あたしもカバンが違うだけで全く同じ格好だから。というのも、この町ではこの格好が一番目立たないからだ。惜しいのはあたしにはこういう格好が妙に似合ってしまうことだ。
「おはよ。十字架ちゃんとつけてきた?」
マーちゃんはかなり元気そうだ。
「おはよ。もちろん持ってきたよ」
あたしは胸元からロザリオを引っ張りだして外に垂らした。といってる間にも、あくびが漏れてしまった。
「なんか眠そうだね」
「うん。でも平気」
「じゃ、出発進行!」
「おー」
と、勢いよく出発するが、実際は田んぼのあぜ道をとぼとぼと二人で歩いてゆく。誰も存在しない静かな道。ぼんやりくすんだ太陽を背に、だだっ広い田んぼを区切る細い道を二人で歩いてゆく。
まさに二人スタンドバイミーだ。
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