三章 ⑦『若君の狂宴』
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そして、若君の狂宴が幕を開けた!
ガキン!
鋭い金属音とともに、若君が日本刀をテレビに突き立てた。画面の中央に日本刀が突き刺さり、そこからくもの巣のようなヒビが広がった。だがテレビは、まだ映像を映し出していた。
「くッ!」
若君はテレビに足をかけて日本刀を引き抜くと、今度はやたらめったらにテレビを切りつけはじめた。
「てえぃっ!でやっ!」
いくら本物の刀でも漫画のようにスパッと切れるわけではない。テレビは切りつけられるたびに、ガラスとプラスチックの破片をまき散らした。
「小人め!魔術師め!」
若君はさらに切りつける。画面に何度も切っ先をたたきつける。そのたびに映っていた映像がノイズにまみれていき、やがて完全に沈黙した。
あたしはあっけにとられた。頭からポカンという音が聞こえてきそうだった。
テレビに驚く昔の人。これはベタなネタだと思っていたけど……やっぱりそういうものなんだな。いや、かえって新鮮だなぁ、などと考えていた。
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そしておじいちゃんたちもこの場に合流した。でもみんな若君を止められなかった。声すらかけられなかった。若君の鬼気迫る様子を見れば無理もない。
だからみんなで居間の扉に固まって、若君が居間を破壊していくのをただただ黙って見守った。
「これは止まらんな」とお父さん。
「まぁ気の済むようにしていただくしかないでしょうね」と母さん。
若君はようやくテレビを倒したと判断したらしい。次にエアコンの破壊に取りかかった。が、そこでいきなり電話が鳴りだした。
若君は子犬のようにビクリと驚いたが、すぐに刀を握り直し、電話をガンガンと切りつけた。
それから再びエアコンの破壊に戻り、途中で炊きあがりのアラームを鳴らした炊飯器を壊した。
「まだ買ったばかりだったのにのぅ」
とおじいちゃん。
「仕方ありませんよ」と芳子ばあちゃん。
「もうテレビは見られんな…ヨン様ともしばらくお別れじゃ…」
とボタンばあちゃん。
「これで終わりじゃ!」
若君は最後に天井の蛍光灯を叩き割り、ようやく居間の破壊を終えた。
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「みなのもの、無事だったか?」
若君はゆっくりと青白い顔を上げた。そして晴れやかに、勝ち誇った素敵な笑顔を浮かべた。
あたしたちはこっくりとうなずいた。
「そうか、それはなによりじゃ。魔術というのは巧妙に忍び寄って人をだますものじゃ。気をつけるがよいぞ」
また無言でこっくりとうなずく。
「なに、礼には及ばぬ。家臣を守るのはいつでも領主のつとめじゃ」
若君があたしたちを気遣ってくれるのはうれしいんだけど…居間の惨状を目の前にすると、あたしたちは心からの笑顔を浮かべられず、つい笑顔がひきつってしまうのだった。
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