三章 ③『病院でのあれこれ』

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 あたしと吉永さんは並んで壁にもたれて、父さんが出てくるのを待った。開いた扉から父さんと看護師さんの声が流れてくる。


「出入りした面会者の名簿も後で見せてくれ。一応話を聞いておくから」

「何日分でしょう?」

「一週間分でいい。あと足の裏もちゃんとふかないとダメだよ、汚れてるみたいだ」

「毎日やってますよ」

「でも、ほら」

「あら。すみません」


「それじゃ、また変化が現れたら呼んで。いつでもかまわないから、最優先で」

「わかりました」

 そしてやっと父さんが出てきた。


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 父さんは白衣のポケットに両手を突っ込み、のそっという感じで現れた。そしてあたしの顔を見て満面の笑みを浮かべた。

「お、来たな、さつき」

 それから隣の吉永さんを見て、まじめな表情に戻った。


「ご苦労様、娘のことですまなかったね」

「いいえ。理事長の指示通り、すべての検査を終了しました」

「うん。妹さんのことだけど、まだはっきりしたことは分からない。でもきっといい知らせになると思うよ。ま、過度の期待はまだ早いよ。こういうケースだからね」

「はい。わかっています」


「じゃ、妹さんに付いててあげなさい。こっからは私がやっとくから」

「ありがとうございます」

 吉永さんはひとつ頭を下げると、静香さんの部屋へと入っていった。そしてあたしは父さんと二人きり。なんとなくいつもと違う感じがして、なんだか照れくさい。


「疲れただろ?」

「うん。座りたい」

「よし、約束の味噌ラーメンをご馳走してやる」


 ラーメンをねだった覚えはないんだけど……


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 それから父さんと職員用の食堂に行き、味噌ラーメンを食べた。あたしはその他に、おにぎり、父さんはチャーハンを食べた。父さんの言うとおり、すごくおいしかった。


「な、おいしかっただろ?」

「うん。病院のご飯ってみんなおいしくないと思ってた」

「今の病院はずいぶん違うんだよ。なんといってもサービス業だからな」

「ねぇ、あたしの検査結果大丈夫かな?」

「まぁ大丈夫だろう。特に連絡が入ってこないからな」

 と言ったとき、父の携帯がピピッと短く鳴った。なんとも間の悪いタイミング。心臓がドキリと跳ね上がる。


「はい」

 父さんが携帯を耳に当てる。それからあたしのことをまっすぐに見つめた。そのままじっと何かを聞いて、うなずいている。


 まさか……なにか異常が見つかったとか?


 と、父さんが不器用にウィンクした。ちょっと口元を押さえて、あたしに囁いた。

「だいじょうぶ。おまえの事じゃないよ」


 ホッ。マジでびびった。


「わかった。何パックだ?50。ちょっと多いな。うん。もう一度調べてみて。はい、はい、よろしく」

 父さんはパタリと携帯を閉じた。


「輸血パックの数が合わないって。おまえの事じゃないから心配するな」


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 それからまた父さんの携帯に頻繁に連絡が入るようになった。どうもゆっくりしている場合じゃなさそうだった。


「ここのところ病院がバタバタしてるんだ。戻らなくちゃ。すまんな、さつき」

「いいよ。ね、父さん?」

「ん?」

「……お仕事がんばってねっ」

 なんか照れるけどそう言ってしまった。


「お、おう。がんばるよ」

 父さんはうれしそうに戻っていった。

 

 それからあたしはおじいちゃんとおばあちゃんに合流して、車で家へと戻った。

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