三章 ③『病院でのあれこれ』
✚
あたしと吉永さんは並んで壁にもたれて、父さんが出てくるのを待った。開いた扉から父さんと看護師さんの声が流れてくる。
「出入りした面会者の名簿も後で見せてくれ。一応話を聞いておくから」
「何日分でしょう?」
「一週間分でいい。あと足の裏もちゃんとふかないとダメだよ、汚れてるみたいだ」
「毎日やってますよ」
「でも、ほら」
「あら。すみません」
「それじゃ、また変化が現れたら呼んで。いつでもかまわないから、最優先で」
「わかりました」
そしてやっと父さんが出てきた。
✚
父さんは白衣のポケットに両手を突っ込み、のそっという感じで現れた。そしてあたしの顔を見て満面の笑みを浮かべた。
「お、来たな、さつき」
それから隣の吉永さんを見て、まじめな表情に戻った。
「ご苦労様、娘のことですまなかったね」
「いいえ。理事長の指示通り、すべての検査を終了しました」
「うん。妹さんのことだけど、まだはっきりしたことは分からない。でもきっといい知らせになると思うよ。ま、過度の期待はまだ早いよ。こういうケースだからね」
「はい。わかっています」
「じゃ、妹さんに付いててあげなさい。こっからは私がやっとくから」
「ありがとうございます」
吉永さんはひとつ頭を下げると、静香さんの部屋へと入っていった。そしてあたしは父さんと二人きり。なんとなくいつもと違う感じがして、なんだか照れくさい。
「疲れただろ?」
「うん。座りたい」
「よし、約束の味噌ラーメンをご馳走してやる」
ラーメンをねだった覚えはないんだけど……
✚
それから父さんと職員用の食堂に行き、味噌ラーメンを食べた。あたしはその他に、おにぎり、父さんはチャーハンを食べた。父さんの言うとおり、すごくおいしかった。
「な、おいしかっただろ?」
「うん。病院のご飯ってみんなおいしくないと思ってた」
「今の病院はずいぶん違うんだよ。なんといってもサービス業だからな」
「ねぇ、あたしの検査結果大丈夫かな?」
「まぁ大丈夫だろう。特に連絡が入ってこないからな」
と言ったとき、父の携帯がピピッと短く鳴った。なんとも間の悪いタイミング。心臓がドキリと跳ね上がる。
「はい」
父さんが携帯を耳に当てる。それからあたしのことをまっすぐに見つめた。そのままじっと何かを聞いて、うなずいている。
まさか……なにか異常が見つかったとか?
と、父さんが不器用にウィンクした。ちょっと口元を押さえて、あたしに囁いた。
「だいじょうぶ。おまえの事じゃないよ」
ホッ。マジでびびった。
「わかった。何パックだ?50。ちょっと多いな。うん。もう一度調べてみて。はい、はい、よろしく」
父さんはパタリと携帯を閉じた。
「輸血パックの数が合わないって。おまえの事じゃないから心配するな」
✚
それからまた父さんの携帯に頻繁に連絡が入るようになった。どうもゆっくりしている場合じゃなさそうだった。
「ここのところ病院がバタバタしてるんだ。戻らなくちゃ。すまんな、さつき」
「いいよ。ね、父さん?」
「ん?」
「……お仕事がんばってねっ」
なんか照れるけどそう言ってしまった。
「お、おう。がんばるよ」
父さんはうれしそうに戻っていった。
それからあたしはおじいちゃんとおばあちゃんに合流して、車で家へと戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます