第三章 夕闇の訪問者

三章 ①『血を吸われた翌朝……』

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 血を吸われた翌朝……だったけど、


 あたしは元気に目を覚ました! ものすごく眠ったし、ものすごく寝覚めもよかった。あたしにしては珍しいことだ。しかもなんか体から元気があふれてる。これは血を吸われたこととなにか関係があるのかもしれない。失った血を取り戻そうとして、新陳代謝が活発になったとか、なんかそんな理由。


 あたしはパパッと制服に着替え、いつものように居間に降りていった。いつもより三十分は速いペース。これなら遅刻にはならないはず。


「おはよー」とあたし。


「あれ?……」

 呟いたのはボタンばあちゃんをはじめ、家族全員。みんな驚いた顔であたしを見ている。あたしが早起きしたせいだ。しかもすごく元気だった。


「めずらしいな」と父さん。

「お姉ちゃん、なんかあんの?」

 と新兵衛。新兵衛は年寄りのように早起きで、朝から食欲も旺盛だ。


「なに言ってんのよ。学校にいくだけよ」

 この日は金曜日。つまり今日さえ乗り切れば、明日からゆっくり休めるのだ。明日はたっぷり寝よう。それからベッドでごろごろして、テレビにマンガ……うーん、楽しみ。と思ったとき、またおじいちゃんが妙なことを言い出した。


「さつき、おまえ、


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 おじいちゃんは唐突にそんなことを言いだした。普段はエンガワの猫みたいにおとなしいじいちゃんだったが、このときばかりは威厳のある、有無を言わさない口調だった。


 が、もちろんそんなわけにはいかない。

「じいちゃんがそう言ってくれるのはうれしいんだけどさぁ、そういうわけにもいかないんじゃないかな?」


 学校に行きたいわけじゃないけど、ずる休みというのはかなり心苦しい。あたしって、小心者だから。


「それなら心配いりませんよ。おじいちゃんがさっき学校に連絡してくれましたよ」

 と、芳子ばあちゃん。じいちゃんは隣でこっくりとうなずいた。


「担任は小早川先生じゃろ、ちゃんと言っておいたぞ」とおじいちゃん。

「なんて言ったの?」

「インフルエンザのようだから休ませます、って言っといた。完璧じゃろ?」


 なるほどね。ちょうど学校でインフルエンザがはやってるらしいし、元医者のおじいちゃんがそう言うのなら疑われることもない。なんとも手回しのいいことで。


「でも、なんで?」

「おまえはこれから病院に行くんじゃ。念のため精密検査をしないとな」

「えっ、お姉ちゃんインフルエンザなの?」

 と新兵衛。珍しく心配してくれてるのかと思いきや、

「うつさないでよ、ボク試合近いんだから」

 それからササッと残りのご飯を食べ、あたしから逃げるように出て行ってしまった。


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「薄情者め……」とあたし。

 どうやら新兵衛には若君の事を話していないらしい。ひょっとしたらまだ若君にも会っていないのかもしれない。二人は完璧に生活時間がずれてるみたいだし。が、それはともかく今はあたしの問題だ。


「なにか心配なことでもあるの?」

 あたしはじいちゃんに聞いてみる。

「わからん。だから念のため、だと言っとるじゃろ」


「病院かぁ」

 めんどくさいな。でもそう言われるとなんだか不安にもなってくる。ひょっとして若君の牙から病原菌とかウィルスが入って、まだ発症していないだけだとしたら……


「朝ごはんを食べたら、おばあちゃんが車で連れてってあげますよ」

 と芳子ばあちゃん。ちなみに内羽一族では代々、車の運転は女性の役目だ。『医者が事故を起こしてはいけない』という理由だそうだが、実際は父さんもおじいちゃんもそう言う事ができないだけだと思う。実際、二人とも運転免許は持ってないし。


「わかった。そうする」

 逆らう理由もないので、そう返事した。


「ほう、ということは、さつきは今日父さんのところに来るんだな」

 やけにうれしそうな父さん。

「……ひょっとして、生まれてから初めてじゃないか? さつきが病院に来るのは」

 そう言われてみればそうかもしれない。実家が病院だというのに、あたしは病院に行ったことがなかった。


「そう……だね。初めてだ」

「そうかぁ、今日は楽しみだな。さつき、昼飯を一緒に食おう。なんでも好きなもの食べさせてやるぞ、ただし職員用だけどな、ここの味噌ラーメンけっこういけるんだぞ。いやタンメンもいいかな、いやぁ楽しみだ」


 はぁ。なんか父さんとはペースが合わない。

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