第4話
第二章 戦場は町の中
一
ついにゲームの当日になった。
別に待ちわびていたわけではないが、それでもゲームの日は授業がないため、勉強しているよりは体を動かしている方がいい俺としては悪くはなかった。
前日の予報のとおり、その日は朝から快晴であった。
十一月に入ってから急に冷え込む日も増えてきたが、この日は日差しの下ではポカポカと暖かい。絶好のサバイバルゲーム日和と言えるかもしれない。
参加者の多くはジャージに着替えていた。選手には服の上からセンサーとアラームが取り付けられる。
ゲームは赤外線を発する電子銃により行われ、センサーによって当たったかどうかを判定するとのことだ。センサーは体のあちこちに取り付けられ、箇所ごとにダメージが異なり、頭、胸、背中に当たると一発でアウト、腕と脚については、三発までは大丈夫ということだ。当たるとアラームが鳴る。
アラームはダメージによって異なり、ダメージが少ないとピッピッピッという断続的な音が数秒響き、アウトになると、ピーという連続音になるという仕組みだ。それにしても、よくこんなことに金を使えるものだ。
一年生の参加者は、生徒の七割に当たる約二百人。これが五〇の組に分かれる。一回の戦いに四チームが出場し、成績のいい一チームが勝ち残る。勝ち残ったチームどおしでまた試合となり、三回勝てば優勝だ。
「今日はがんばりましょう」
三ノ宮さんが笑顔を浮かべながら、俺の近くに来て言った。
以前見た姿とは異なり、長い輝くようなストレートの髪をポニーテールにしている。恰好はジャージ姿であり制服姿でないのがちょっと残念であったが、それでも三ノ宮さんのエレガントさは決して失われることはない。いや、むしろ、胸の辺りが制服よりも立体感がはっきりと出ていて、これはこれでいいかもしれないと思った。
「ほら、そこの二人。あほ面下げてないで、早く行くわよ」
髪を後ろで結んだジャージ姿の唯香が冷たい目線で俺たちを見ていた。気が付くと、俺の横では中村が、三ノ宮さんを前に鼻の下を伸ばしたまさにあほ面という表情で立っていた。俺も今、同じ表情だったのかと思うと、これは反省が必要のようだ。
俺たちのチームは第一試合で、戦うのは町フィールドだった。
試合前に、高台から二〇分だけ戦場となるフィールドを見ることができる。俺たちは早速行ってみた。
今日のフィールドは、普段はゴルフ場がある場所である。そのゴルフ場に、プレハブでビルや工場を模した即席の町ができていた。建物といってもミニチュアで、高いもので三メートルほどある。それがエリア全体にあった。建物の間には道路があり、そこを通って進めということのようだ。
「よくもまあ、こんなの作るよな」
金がある学校とはいえ、もっとましな金の使い方があると思うが。
この学校、私立大文字高校は、昔、旧四大財閥の一つである三友財閥の創業者が作った学校である。
創業者は突然、この国の将来を担う人材の育成に目覚め、ありあまる資金を基金とし、学校の運営資金に充てている。おかげで私立にも関わらず、この学校の生徒の学費負担はかなり少なくなっている。
階級制度もその創業者が提案したものとのことである。生まれ育った生家が貧しかった創業者が一生懸命努力し、裸一貫から財閥を築くに至った。その精神を引き継ぐべく作られた制度とのことである。
かなりユニークな制度であるため、文科省や県からは改善要求が出たこともあったらしいが、三友グループの政治力、そして政府からの私学助成金を一円ももらっていないこともあり、要求を余裕で跳ね除けているらしい。
一回戦で戦場となる町フィールドは、縦一キロ、横二キロに広がる横長の地形である。四つのチームは、フィールドの北東、北西、南西、南東の四つ角のいずれかからのスタートとなる。
高台から見下ろすと、フィールドにはプレハブが立ち並び、町というよりは迷路のように見える。かなり視界も悪そうだ。ちなみに、プレハブを故意に壊したり、上によじ登るのは禁止とのことである。
俺の隣では三ノ宮さんが双眼鏡で、フィールドの様子をつぶさに観察していた。なかなか用意周到のようだ。
唯香も真剣にフィールドを見ていた。ただ、それよりも唯香の手に握られていた「よい子のためのサバイバルゲーム入門」というタイトルの本が気になったが。
二〇分が経過すると、俺たちは高台から移動した。
次に武器が支給された。武器は電子銃である。BB弾を発射するわけではなく、引き金を引くと銃口から赤外線が発射される仕組みである。
銃は三種類あり、その中から好きなのを一人一種類だけ選ぶことができる。
一つ目がライフル。射程は約三十メートルで一番長い。命中精度も高いが、一発ごとにリロード時間がかかるため連射はできない。
次に、ショットガン。射程は約二十メートル。散弾で広範囲に飛ぶため、広い範囲に打撃を与えることができる。これも連射はできない。
最後に、サブマシンガン。射程は十メートルで一番短いが、高速連射が可能なため、近距離戦闘では圧倒的に有利となる。
ためしにショットガンを手にとってみるとずっしりと重い。金属製であり、おもちゃという感じはせず、かなりリアルにできている。
俺はショットガンを構えて、近くの木に向かって標準を合わせて引き金を引いてみた。すると、銃声が響いた。周囲に響き渡るかなりの大音量である。しかし、見た目には銃口が光るだけで、木の方には何の変化もない。
「やっぱり射程が長いライフルが有利じゃね」
中村はライフルを手に取って言った。
ライフルはショットガンよりもさらに銃身が長く重い。
確かに、射程が長い方が有利な気がする。射程の長いライフルなどで遠くから狙い撃ちされたら、射程の短いマシンガンではどうしようもないだろうと思った。
それぞれの武器を手に取り吟味していた唯香は、何かに得心したかのようにうなずくと、厳かに宣言した。
「みんな、サブマシンガンにしなさい」
「なんでそうなる?」
俺と中村の声が見事にシンクロした。
「なんでこんなに簡単なことが分からないわけ。まず、このプレハブだらけのフィールドじゃ障害物が多すぎて、長距離射程なんてほとんど意味ない。それにライフルとショットガンは重いから、すばやい移動には不向きよ。マシンガンは割と小さいから持ち運びやすい。一気に敵に接近して、一気に片を付けるのよ」
確かにマシンガンは銃身が他と比べて短く比較的軽い。持ち運ぶことを考えると、メリットはありそうだ。だが、四人ともマシンガンとは……。
「じゃあ、全員マシンガンで決まりね。みんな、遠くから狙い撃ちされないように周りには気を付けてね」
唯香の決定にそれ以上口を挟む者はいなかった。なお、俺たちのチームのキャプテンが唯香になったことは言うまでもない。
二
そして戦いの火ぶたは切って落ちた。
俺たちのスタート地点は南西。
俺たちの目の前には、俺の身長よりもはるかに高いプレハブの立方体が整然と並んでいた。
プレハブは近くから見るとかなり圧迫感がある。もともとゴルフ場ということもあって、ところどころに木があるため、さらに視界が遮られており、遠くまで見通すことはできない。
戦いの制限時間は一時間半。
敵を何人倒しただけではなく、味方が何人残ったのかもポイントになるので、ここは慎重に行くべきだろう、と俺は思ったが……。
「みんな。このまま一団になって、北に向かって走るわよ」
唯香キャプテンの指示は俺の考えとは異なるものだった。唯香はそう言うや否や、北の方角に向かって走り出した。
「なんでそうなるんだ。ここは様子見すべきじゃないか」
俺たちも続いて走り出す。
「みんなそう考える。とりあえず様子を見ようとか、ほかのチームどおしがつぶし合うのを待とうとか」
「だったらなぜ?」
「確実に勝つためには敵の気勢を制しなければならない。相手もまさか、別のチームの全員がいきなり襲い掛かってくるとは思ってないだろうから、その裏をつくのよ」
なるほど。言っていることはわからないでもない。だが、相手も警戒しているだろうから、そんなにうまくいくか不安ではある。
五分ほど走っただろうか。まだ、相手チームの姿は見えない。
時計を確認した唯香は走るのをやめた。駆け足程度の速度であったが、中村と三ノ宮さんの息が少し切れている。
「ここからは慎重に行くわよ」
唯香は小声で言った。その声には疲れている様子がない。
フィールドの縦の距離はおよそ一キロ。途中起伏もあり、プレハブや池を迂回する必要もあったが、相手チームのスタート地点まで大分近づいたはずだ。
周囲にはプレハブが縦に並んでいて視界が悪い。プレハブの間からはある程度、向こう側を見通すことができた。
唯香の指示により、俺と唯香、そして中村と三ノ宮さんが二人組になって左右に分かれ、プレハブの合間を縫って、少しずつ前に進んでいく。突然、敵に出くわさないように、みんな慎重だ。
「相手もスタート時点に留まっているとは限らないだろう」
俺は唯香に小声で言った。
「その可能性もあるけど、それなら敵は東に向かったってことよね。私たちの方向に来たのなら途中で気が付かないわけがない。東に向かったのならそれならそれで好都合。別のチームとの戦闘中なら背後から襲うこともできるし」
なるほど。こいつはこいつで無鉄砲極まりないと思っていたのだが、それなりに考えがあるようだ。
俺たちが一歩一歩慎重に前進を続けていると、視界の先に人影を捉えた。ライフルを構えた男子生徒が一人立っていた。やや、所在なさ気に、周囲に目を向けながら、かなり緊張した面持ちだった。俺たちの接近には気づいていないようだ。
「敵は動いていないようだな。どうする? とりあえず一人だが」
俺の言葉に唯香は少し考えるようなそぶりを見せた。中村と三ノ宮さんも唯香の指示を待っている。
唯香の判断は早かった。唯香は俺に短く小声で指示を出すと、そのまま、中村たちの方に近づいて行った。
一分待ってから、俺はプレハブの影から姿を現した。
相手男子もすぐに俺の姿を見つけあわてた様子だったが、すぐに自分の役割を思い出したかのように、手に持っているライフルを俺に向けた。
俺はすぐにプレハブの影に隠れた。
相手との距離は三十メートルほど。俺の持っているマシンガンの有効射程距離は十メートル以下なので、射程の長いライフルを相手にこの距離で撃ちあえばこちらに勝ち目はない。
俺はプレハブの影からちょっとだけ顔を覗かせた。すると、相手はやはりライフルをこちらに向けて、標準を合わせていた。
俺は一瞬全身を現し、相手に向けてマシンガンを発射した。
ダダダダと音だけはそれっぽく響く。そして二秒ほど連射すると、すぐにまた物陰に隠れた。
この距離では俺のマシンガンが相手に当たるはずもなく、ただの威嚇である。相手のライフルの音は聞こえなかったので、発射はしなかったのだろう。だが、俺の放ったマシンガンの音はかなり大きなもので、相手の仲間が近くにいたら、そこまで聞こえたことだろう。
俺は十秒ほど数えると、プレハブから半身を露出させ、相手に目がけてまたマシンガンを放った。今度は長く五秒ほどの連射だ。だが、当然のことながら、相手には届かない。
相手もマシンガンが届かないことを悟ったのだろう。悠然とライフルを構えこちらに狙いを定め、そして銃声が響いた。
その瞬間、俺の胸についているアラームが短く鳴り響いた。
ライフルは俺の腕のセンサーを捉えたようだ。だが、腕なら三発までは耐えられる。
俺には別に焦りはなかった。俺の任務は相手に撃たせるということだった。
俺はいったんプレハブに隠れたのち、少しだけ顔を出した。そして、相手の男子が後ろから銃を突きつけられている光景が見えた。
ライフルは連射ができず、次に撃つまで一定の時間を要する。唯香たちはひそかに接近していて、相手が撃ったすぐ後に相手の背後を取ったのである。
「武器を捨てなさい」
唯香の厳しい声が響く。
相手はその指示に従い、ライフルを落とし、手を上げた。
考えてみれば本物の銃で脅されているわけではないので、そこまで従う必要はないのだが、それでもその場の雰囲気とあとは唯香の迫力に圧倒されたのであろう。ライフル男はこうして俺たちの捕虜になった。
中村は相手の男が落としたライフルを没収した。唯香は背後からライフル男にマシンガンを突きつけて、相手のチームがいるであろう方向に向かってゆっくりと歩き出した。唯香以外の三人はプレハブの影に隠れ、敵のチームが現れるのを待つ。
やがて、銃声を聞きつけたのだろう、敵のチームメンバーが三人現れた。いずれも男。手に持っているのはライフルが一人とショットガンが二人である。
だが、唯香は三人が来ても動じた様子はなかった。
「動くと人質の命はないわ」
唯香の残酷な宣告が事もなげにされる。戸惑う相手チーム。
唯香はそのままライフル男を盾にして歩き続け、相手チームとの距離を詰めていく。
距離が縮まっても、相手チームは味方のライフル男が邪魔になって撃つことができない。彼らは対応に苦慮し、その注意は前方にのみ向けられていた。
その間に、俺たちはプレハブの後ろから接近し、側面から三人同時に近距離からマシンガンを放った。
相手チームの男たちはハチの巣状態となり、たちまち複数のアラーム音が鳴り響いた。ついでに唯香はライフル男にマシンガンを発射し、彼らの戦いは終わった。
納得できないという表情を浮かべながらすごすごと引きあげていく相手チームの背中を見ながら、俺たちは勝利の喜びに浸っていた。
「やったな」
俺は中村とハイタッチをした。三ノ宮さんも嬉しそうな表情をしている。だが、唯香はそんな暇を俺たちに与えなかった。
「油断しないで。敵はまだいるわ」
そして唯香からはすぐに次の指示が下った。その内容は「密集して隠れなさい」ということだった。
俺たちは、四人の敵を倒し味方はまだ四人残っているので、ポイントは高い。残りの二チームのうちどちらかが同じように圧倒的な勝利を収めているのでなければ、このまま終了時刻を待っていれば俺たちの勝ちである。
だが、俺たちは唯香の先導の下に、プレハブに隠れながら、フィールドの中央付近まで慎重に進んだ。そして周囲を見回した唯香は言った。
「ここら辺でいいわね。私と直人はこっち。中村君と三ノ宮さんはそっちで待機して」
俺たちはプレハブを背後にしたところに待機することになった。
そこはプレハブが立ち並び、うまい具合に袋小路になっていて、敵が近寄ってくると前しかない。射程の短いマシンガンでも前方までの距離が十メートルよりも少し短く、敵が近寄ってきたら、すぐに射撃することができる好位置である。
俺と唯香が右側に、中村と三ノ宮さんが左側に陣取ろうとした。またしても中村と三ノ宮さんが一緒なのが気に入らないが、まあ、この際、仕方あるまい。
「待ってください」
そう言ったのは三ノ宮さんだった。
「何?」
今までほとんど口を開かなかった三ノ宮さんの突然の言葉に、唯香は戸惑った様子を浮かべた。
「赤坂さんの作戦はとてもいいと思います。でも、この位置はベストではないと思います。手前の壁の角度が緩くて、遠くからライフルで狙い撃ちされる可能性があります」
俺たちは、三ノ宮さんの指さした方向を見た。その角度からはわずかだが、遠くが見通せた。
「確かに、そうかもしれないわね。でも、ぐずぐずしていたら敵が来ちゃう。ベストポジションを探している時間はないし、仕方ないんじゃない」
「いえ、場所ならあります。ここからすぐのところです」
「なんで、そんなことわかるのよ」
「最初にフィールドを見たときに地形の確認をしましたので」
確かに、三ノ宮さんは試合前に双眼鏡でフィールドを観察していた。だが、それは短い時間であり、広いフィールドの細かい場所までチェックしているような時間はなかったと思うが。
「三ノ宮さん。その場所はここから近いのか」
俺の問いかけに三ノ宮さんは笑顔で答えた。
「はい。速足で四十秒ほどの距離です」
「唯香」
「分かったわ。急いでそっちに移動しましょう」
唯香の決断は早い。
三ノ宮さんの先導で、俺たちはそっちに向かった。
辿り着いたその場所は、確かにプレハブで周囲が覆われた入り口が狭い袋小路になっていた。先ほどの位置よりも守りに適した場所で、遠くから狙撃される恐れもない。ベストポジションだ。
「三ノ宮さん。もしかしてフィールドの地形のすべてを記憶しているのか」
俺の問いかけに、三ノ宮さんは軽く首を振った。
「いえ、すべてなんてとても。でも、ある程度こちらのルートを想定して、重要かなと思う場所は大体覚えました」
さすが学年指折りの秀才。恐るべし…。
「話は終わり。戦闘に集中して」
唯香の声が飛ぶ。
少し離れたところから銃声が聞こえた。近くで戦闘が発生しているようだ。
草を踏む音が聞こえた。
俺は唯香に視線を送った。
唯香も小さくうなずいた。袋小路の反対側にいる中村と三ノ宮さんもやはり同じようにうなずいた。
俺はゆっくりとマシンガンを構えた。
俺たちが潜んでいた場所に飛び込んできたのは、最初は女子生徒が一人だった。
早速俺たちはマシンガンで狙いを定めたが、俺たちを見てあわてた顔をした女子は、すぐにその場から逃げ出してしまい、俺たちはマシンガンを発射することもできなかった。
「逃がしたか」
「油断しないで。私たちの位置は敵に知られた。仲間を連れて来るかもしれない」
唯香の予想は当たった。それから数分後、女子生徒は仲間二人を引き連れて、また、やってきた。だが、相手のチームが持っていたのは、ショットガンとライフルだった。
相手チームが持っていた武器を構えようとしたその瞬間に俺たちのマシンガンの音が響いた。四つともなるとかなりの大音量だ。
逃げ遅れた敵のアラームが響く。結局、正確に何人倒して、誰の撃ったのが当たったのかは分からないが、とにかく、敵を倒したことは間違いないようだ。
そして、
周囲にサイレンの音が鳴り響いた。
それはゲーム終了の合図だった。
「よっしゃー!!」
中村が声を上げた。
俺も勝利を確信した。
俺たちは誰も倒されないまま、敵チームのメンバーを五人以上倒した。俺たちの勝利は明らかだった。
三
「かんぱーい!」
俺たちは近所のファミレスに集まって、ドリンクバーで何度目かの乾杯をした。
結局、ポイント数で俺たちのチームは断トツでトップだった。無事一回戦を突破した。
「いやあ、案外ちょろいもんだな」
俺の隣に座っている中村がにやけながら言った。
「油断するなよ。次もこううまくいくとは限らないんだから」
俺はそう言いながらも、内心は同じような思いだった。
「私はあまりお役に立てませんでした。すみません」
俺の向かいに座っている三ノ宮さんはあくまでも謙虚だ。
「そんなことはありません!!」
俺と中村の声が見事にシンクロし、三ノ宮さんが笑みを浮かべた。
「でも、初めてのチームの割には、とてもチームワークが良かったと思うわ」
唯香もたいそう満足そうだった。
「それで、二回戦はどうするつもりだ。また、同じ作戦か」
「二回戦は相手も勝ち上がったチームだし、このゲームにも慣れてきている。当然、こちらもそれなりの作戦が必要だわ」
そう言って、また良からぬことを考えている唯香の表情はとても楽しそうだった。
「それにしても、城島さんって体力ありますよね。あれだけ動いたのにもかかわらず、全然、息を切らしていなかったのですから」
三ノ宮さんの視線には、俺に対する尊敬の念が込められていた、と思う。
「体力には自信がありますので。最近、運動不足だけど、以前はそれなりにスポーツをしていましたから」
「そうなんですか。何をされていたのですか?」
「野球を少々」
「野球ですか。すごいですね。今はされていないんですか」
「うん。今はちょっとね」
俺は目をそらした。すると唯香が口を挟んできた。
「はい。おしゃべりはそれまで。明日はもっと厳しいゲームになると思うから、各自、体調を万全に整えておくこと。いいわね」
そう言うと、唯香は立ち上がった。この場は解散ということだろう。
俺は小学校から野球をやっていて、中学では野球部でエースだった。地元ではそこそこ強い中学で、三年のときにはくじ運にも恵まれ地区大会の決勝まで進んだ。決勝戦では相手チームのエースがけがで欠場しているという、ここでも運に恵まれ、何とか勝利し優勝した。
だが、全国大会に進むと運の入り込む隙間はなかった。
俺たちは一回戦で敗退した。十一対一という惨敗だった。その後、俺たちを破ったチームも次の試合で別のチームに惨敗していた。俺は全国レベルの実力をまざまざと見せつけられ、自分が井の中の蛙であるということを思い知らされた。中学の終わりまでは野球を続けたが、その後はやめた。
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