第4話 ダークエルフの事情

 暗い、牢獄のような、息の詰まる地下空間にて。

 二人の男が対峙していた。

 片や、全身を漆黒の鎧で覆った邪悪な騎士。

 片や、光の加護を受けた、心優しき青年。

 漆黒の騎士は、呼吸器代わりのマスクでくぐもった声で、言う。


「私は、……お前の父だ」


 対する青年は、その言葉に耳を疑っていた。


「なっ、……なにをバカなことを言っている……?」

「疑うのも無理はない。私も最初は、お前と同じ、光の加護を受けた騎士の一人だった。……だがある日、気がついたのだ。光と闇に調和をもたらさなければならぬと……」

「そんな、……バカな。じゃあ、あなたがアースランナー一世?」

「ふっふっふ。その通りだ。アースランナー二世、――いや、我が息子よ」

「嘘だ。……嘘だぁああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 そこで、


「はいストップ!」


 スラっち先輩が《時空管理リモコン》の一時停止ボタンを押す。


「こんにゃろ。妙なタイミングでネタバレしやがって。そういうややこしい事情は、死に際に話せってんだ」

「どうします?」


 俺が訊ねると、


「……うまいことやるしかねえな。ちょっとだけ”巻き戻し”するから、ホシはテキトーに騒音を起こしてくれ」

「騒音、ですか……」


 俺は少し考えこんだ後、近場に都合のいい通気口を発見した。

 そこから、強烈な《風魔法》を発生するように細工する。

 幸い、最近“WORLD1777”で術を覚えたばかりのため、難しくはない。


「おっけーっす」

「よし」


 数十秒ほど、世界が逆回しに動き始め、


「時間の流れを戻すぞ」


 全ては元通りになった。

 漆黒の騎士は先ほどと同じく、マスクでくぐもった声を出す。


「私は、……お前のしゅごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 対する青年は、なんとも微妙な顔をして、


「……え? なんかいった?」

「びゅごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

「うーん、まあいいや。勝負!」


 決戦が始まる。



「いやーっ! 今回はマジで助かった! お疲れー!」


 仕事帰りの夕食。

 スラっち先輩のおごりで、俺たちはちょっぴり高めのステーキハウスにいた。


「いえ。俺も先輩の役に立ててよかったです」

「おう、可愛いこと言うじゃねえか!」


 どこが口かもよくわからないボディを巧みに動かして、スラっち先輩はサイコロステーキをひょいっと拾い上げる。


「いやー、悪ぃな。正隊員に上がったばっかなのに、下働きみてーな仕事させちまってよ」


 透明ボディに取り込まれた肉の破片がゆっくりと溶かされていくのを見ながら、


「いえいえ」


 実際、”正隊員”に上がったとは言え、まだまだ俺はぺーぺーだ。

 担当している世界も、まだ”WORLD1777”一つだけ。優秀な見廻隊員は最大で5つか6つくらい世界を受け持つことがあるため、先輩の仕事を手伝うのは当然である。

 柔らかい牛肉に舌鼓を打っていると、自然と話題は“WORLD1777”に繋がっていくのだった。


「……んで、ジッサイどーなの。初めて異世界を担当している気分は」

「まあ、上々ですよ」

「ホントかぁ?」


 スラっち先輩は疑わしく呟く。


「勇者役がまずいって話までは聞いたが」


 俺はそこで、昨晩のユーシャの姿を思い浮かべた。

 グハハハハと笑いながら、カザハナから盗んだアイテムと、それを換金した場合の総資産を計算している姿を。


――どれも、冒険の中盤くらいでこっそり宝箱に入れて置こうと思っていたアイテムなのに。

「……問題ないっす。思ったより世渡りが上手い子でしたので」


 あるいは、そういう俺の眼は死んだ魚のようだったかも知れない。


「なんだ、ずる賢いタイプってことか? ……ふうん。そういう前例がないって訳じゃないし、いいんじゃないか?」

「それはまあ、そうかも知れませんが……」


 最初に担当する勇者役くらい、素直に応援したくなる王道タイプが良かった。


「で、その娘、今は何してる?」

「今はいったん村で休んでるはずです」

「モモは?」

「”SEP効果”起動して、見張りについてくれてます」

「見張り? あいつたしか、正式に勇者パーティに加わるって話じゃなかったのか?」

「それは、……いろいろ考えて、ボツ案にしました」


 というのも、モモは力の加減ができないことがわかったためである。

 戦闘力の高すぎる見廻隊員が勇者の味方に加わってしまうと、その者に仲間が頼り切りになってしまう危険がある。

 さすがに、これ以上ユーシャに堕落されるのは困るのだ。


「本人はずいぶん不服そうでしたけど」

「そっか」


 スラっち先輩はぐにょんと身をくねらせた。考え事をしている時の癖だ。


「しっかし、“ずる賢い”タイプか……結構手間がかかるパターンだな」

「ですよね……」


 あんまり愚直なのも困るが、敵を作り安いタイプの”勇者役”は、時として思わぬ落とし穴に引っかかることがある。


「そうなると目が離せんぞ。満足に休暇もとれんかもしれん」

――それ、なんかのフラグですか。勘弁して下さい。


 そう言いかけたタイミングで、


『おい、ホシ先輩!』


 《バベルフィッシュ・システム》の遠隔通信で、モモから連絡がある。


「なんだ? 人がうまいステーキを喰ってるって時に」

『いま、ちょっとした問題が、――って、なに! ステーキだと!』

「問題? 問題ってなんだ?」

『それよりステーキってなんだよ、うんちかオメー!』

「人が飯食ってるときにシモの話をするな」

『うんちうんちうんち! あたしも誘えよ!』


 お前は今、異世界入りしてるだろうが。


「落ち着け。……とりあえず、トラブルについてだ」

『その件だけど。……あー、その』


 苦いものを口に含んだ表情が目に浮かぶような口ぶりで。


『いちいち説明するの、めんどい。すぐに来てくれ』



「……んで」


 俺は、食べきれなかった食後のデザートに思いを馳せながら、後輩に訊ねる。


「あいつらいま、何をしてるんだ」


 人気のない夜道を歩いている怪しい娘が二人。

 ユーシャとその幼なじみ、ナナミだ。


「一人で肉を喰うようなうんちまみれ先輩にもわかるよう、イチから状況を説明するとな。……あの後、カザハナのやつが“冒険者ギルド”に捕まったみたいなんだ」

「なに?」

「カザハナはもともと、“ギルド”にマークされてたみたいだからなぁ。それに、ユーシャが事前に知らせてたんだと。『もし、カザハナ一人で村に戻ったら、身柄を拘束して下さい』ってさ。この村のギルドマスターも、事前に“ゴールデンドラゴン”の一件を聞いていたから、了承したみたいだ」


 面倒くさがりのわりには、そういうところ抜け目がないな、我らが勇者様は。


「それで? カザハナがギルドに捕まったからって、なんで深夜に出歩く必要がある?」

「都に護送されていく前に、いちど顔を見ておきたいんだってさ」


 ……そういうことか。

 俺は”SEP効果”が起動していることを確認してから、いつもの立ち位置(ユーシャの背後二メートル後ろくらい)に移動し、二人の会話に耳を傾ける。

 暗がりの中、ナナミがボソボソ声で、


「でも、……ほんとに大丈夫なのかな?」


 対するユーシャは、熟練の空き巣のように堂々としていた。


「もちろん、良くはないでしょう」

「……だよね。勝手に牢屋に入ろうとしてるんだもんね」

「ねえ、ナナミちゃん。怖いなら、宿に残ってたらよかったんですよ」

「それはもっと嫌。あたしだって、カザハナさんがなんでこんなことしたか、知りたいもの」


 この二人、どうやらカザハナの真意を確かめるためだけに、わざわざ牢屋へと忍び込もうとしているらしい。


――好奇心旺盛というか。お人好しというか。

「だったら、いま会うしかないでしょう? カザハナさん、明日には都に護送されて、……その後きっと、首をはねられちゃうんですから」

「うん」


 二人の目的地は、村の隅にひっそりと佇む、犯罪者などを収容するための施設だ。

 質素なレンガ造りの建物は、その実、何重もの魔法結界が張られているらしい。

二人は、正面にある出入り口の戸を叩くのだった。


「ごめんくださぁい」


 それに応えたのは、


「ん~? なんだぁ? こんな遅くにぃ~」


 ずんぐりした風貌の巨躯。

――オークだ。



【オーク】

 厳密にいうと魔族の一種だが、人間とも共存している珍しい種。豚に似た顔を持ち、怪力。ほとんど例外なく好戦的な性格だが、特定の種族と敵対するようなことはなく、”WORLD1777”においては傭兵稼業などによって生計を立てている者が多い。

 戦の中で名誉の死を迎えることで幸福な世界に旅立てるという独特の信仰を持つため、傷つけば傷つくほどに力強く、猛り狂う。『瀕死のオーク一体を殺すのに、無傷の騎士十人が必要』とされる。

 また、他の種族に比べ、繁殖欲が非常に強く、人型の生き物であれば誰とでも子をなすことでも有名。そういう意味では、”ダークエルフ”と近しい性質を持つ。



「あ……う。その。お、お、お、おこんばんは」


 明らかに怯えの色を見せながら、ナナミが引きつった笑いを浮かべた。


「おうおう、めんこい娘さん二人で、こんな遅くに何用かね? ……確か、あのダークエルフの娘を通報した二人、だな?」


 一瞬、ユーシャとナナミが視線を合わせる。


「はい。……それで、その、できればカザハナさんに会わせてもらえないかと思いまして」

「悪いが、そりゃできん。あの悪党は、明日朝一番の馬車で都行きだ。――調べたら、いろいろと前科があるらしくてな。くれぐれも間違いが起こらないように言われとる」

「そう……ですか」


 二人は、少しだけ残念そうな素振りのあと、


「じゃ、私たち帰りますけど。――間違いなくお仕事を終えられますように」

「ん。ありがとさん」


 そこでナナミが、いかにも今思い出した、とばかりに、


「ア、ソーダ。ユーシャちゃん。温かいスープがあったよね?」

「ああ、そうでした。差し入れを持ってきたのでした。あばれブタのスープです」

「ほう? 悪いなぁ。ちょうど小腹が空いたところだ。ありがたくいただくよ」


 オークが喜色満面にそれを受け取る。豚面のくせに、豚肉が好みらしい。

 ユーシャは、スープの入った水筒を門番のオークに渡して、


「それでは」


 と、その場に背を向ける。

 俺はというと……少しだけ苦い表情になっていた。


――いま、あいつが渡したスープって……。


 たぶん、少し前に俺が使った、ネムリ薬入りのやつじゃないか。


「いやー。あの不思議なスープ、念のためとっておいて良かった♪」


 本当に抜け目のないやつだ。

 オークが高らかにいびきをかきはじめるのは、それから数分後のことだった。



 ぐーぐーと眠っているオークの隣を、忍び足。

 ユーシャとナナミは、カザハナのいる牢屋へとたどり着く。


「ユーシャ、……それに、ナナミか」

「あ、どーもです」

「……とりあえず、見事だと褒めておこう。正直、お前たちのことを完全に見くびっていた」

「相手の油断を誘うのは、駆け出しのものがとれる、数少ない有効な戦法ですから。利用しない手はありません」

「確かに、な……」


 力なく笑うカザハナは、あちこち擦り傷だらけで、明らかに気力を失っているようだ。

 恐らく、先だっての繰り広げられた捕物で”冒険者ギルド”の連中にやられたのだろう。


「ひどい……。ねえ、カザハナさん。格子に近づいて。《治癒魔法》をかけます」

「いいのか? 暴れるかもしれない」

「それはしないって、あたし信じてます」


 カザハナは素直だった。

 ゆっくりと鉄格子にまで寄りかかり、


「――《一式治癒魔法》」


 緑色の優しい輝きを、その身に受ける。


「ああ。……楽になった。助かった」


 安堵のため息を吐いてから、


「それで、二人は何の用で来た? 言っておくが、仲間はもう逃げたぞ。”ゴールデンドラゴン”も彼女の懐にある」

「あの、黒フードの人ですよね」

「……なに。まさか、アオハナの魔法を受けて、意識があったのか?」


 すると、ナナミがまるで自分のことのように胸を張って、


「ユーシャちゃんって、生まれつき攻撃魔法がすごく効きにくいんですよ」

「へえ。……何かの“固有スキル”の効果かな。ひょっとすると、本当に勇者なのかも」


 このダークエルフ、なかなか良い勘をしてる。


「”ゴールデンドラゴン”なんてどうでも良いんです。それよりあの時、あなたがなぜ私たちを生かしたのか知りたくて」

「……ふん」


長耳の娘は、まるで過去の過ちを悔いるように、


「ただの気まぐれさ。トドメを刺せば、何か嫌な事が起こる。――そんな気がしただけだ」


 本当に、――良い勘の娘だ。


「いえ。そうじゃないでしょう? あなたが私を生かしておいたのは、私たちに望みを託したかったからではないですか?」

「望み、だと?」

「カザハナさんは、私たちにあのアオハナさんとかいう、黒フードの女性を止めて欲しかったのでは?」

「……何を根拠に、そう思う」

「あなたと一緒にいた時間は長くありません。でも、あなたが本当の悪人でないことくらいはわかります。……それに、あなたたち姉妹は、行動を共にしてはいるものの、どこかすれ違っている感じがしました」


 ユーシャは、血と泥に汚れたカザハナをまっすぐに見る。

 カザハナは、心の底から意外そうにしていた。


「あの短いやり取りで、……それだけのことを……しかし」


 そして、しばし視線を床に落とした後、 


「私は悪人だよ。そこだけは、とんでもない思い違いだ」


 言って、深く深く嘆息する。


「では、……認めるんですね? あなたには何か事情がある、と」


 カザハナは、「ああ」と、か細く応えた。



 その後、カザハナが話した事情をまとめると、――こんな感じだ。


 カザハナ・アオハナの姉妹はかつて、ここよりもっと北にある、“テンドウ地方”と呼ばれるエルフ族が多く住む地域の集落で暮らしていた。

 だが、そんな彼女たちの暮らしも、とある奴隷商人が雇った傭兵集団の襲撃により打ち壊されてしまう。

 多くの同胞が奴隷として攫われていく中、ほうほうの体で逃げ出したカザハナとアオハナ……そして、アオハナの娘のリンネ。

 だが、逃走の最中、リンネは自ら囮となって、傭兵どもに捕まってしまう。

 安全地帯まで逃げ切ったカザハナとアオハナは、なんとかしてリンネを取り戻すことを決意する。

 だが、奴隷商人のコミュニティは強大だ。まともに戦って勝てる相手ではない。……そう判断したカザハナは、焦る姉を宥めて、とにかく金策に精を出すことにする。

 ただ、まともに稼いでいては、リンネが買われて行くまで、とても間に合うまい。

 そうして彼女たちが手を出したのが、手っ取り早く金を稼げる手段、――盗賊稼業であった。

 だが……、


「娘を失ってからというもの、アオハナはほとんど正気じゃなくなってしまった」


 そのストッパーの役割を果たしていたのが、他ならぬカザハナであった。

 しかしアオハナはいま、実の妹であるカザハナさえも見捨てて、どこかへ姿を消した。


「もう、――アオハナが何をしでかすか、私でもわからない」


 あるいは、奴隷商人を暗殺しようと目論んでいるかも。

 それが自殺行為だとわかっていながら。



「……ひどい話」


 ナナミは目元に涙をうるませているが、俺は苦々しい表情だ。

 実を言うと、この手の悲劇は “剣と魔法の世界”において珍しいことではない。

 “勇者役”の人間は、もっと巨大な悪と戦うべき存在だ。一介の奴隷商人ごときを相手にしている暇はないのである。


「わかりました」


 ユーシャは、小さく嘆息してから、

「話を聞いてしまったからには、もう他人ごとではありませんね。アオハナさんを止めに行きましょう」

「何?」


 その言葉に眉をひそめたのは、頼んだカザハナ自身だ。


「しかし、いいのか?」

「構いませんよ」

「だが、……私には、ユーシャに支払える報酬がない。隠し持っていた高価なアイテム類も、ギルドに没収されてしまっただろうし……」


 ”隠し持っていた高価なアイテム”を懐に収めたユーシャは、表情一つ変えずに続ける。


「では、こういうのはどうです? ……もし、アオハナさんと、その娘のリンネちゃんを無事取り返すことができれば、カザハナさんは、正式に私たちの仲間になる。……こんどこそ、本当の仲間に」

「なんだと?」


 カザハナは、口をへの字に結んで、


「しかし私は、明日には処刑される身だ」

「ご安心を。そうはなりません」

「……なに?」

「あなたには今から、一緒にここを脱獄してもらいます」

「そんな、……」


 銀髪のダークエルフは、しばし絶句していたが、


「いや、ダメだ。門番のオークがお前たちの顔を見ている。このまま逃げれば、お前たちに疑いがかかるだろう。そこまで迷惑はかけられない」

「――そのとおりだぞ。めんこい娘さんたち」


 野太い声に、ユーシャたちのみならず、俺まで「びくっ!」となった。

 振り向いた先にいたのは、――眠っていたはずのオーク。

 ユーシャとナナミは、素早く距離をとり、身構える。


「……ずいぶん、お早い目覚めですね」

「お前ら人間は、わしらオークを『知恵なし』と呼ぶがな。さすがに、仕事中に現れた怪しいもんから渡されたスープを飲むわけなかろう」

「ってことは、寝たふりをして、話を聞いていた、と」

「うむ」


 そこで、カザハナが必死の形相で叫んだ。


「この二人に罪はないんだ。すべて私が仕向けたことだ。……頼む、逃がしてやってくれ」


 豚面の魔族は、その巨大な鼻孔から、ぐぶうううう、と、独特の息を吹く。


「まったく。何も聞かずに追い返しちまえばよかったんだが。母方がダークエルフの血筋なのがまずかった。つい、アンタの事情を聞きたくなっちまった。やれやれ」


 そして、ごそごそと腰の辺りをまさぐって、


「ほら、牢の鍵だ」


 じゃらりと鍵束を床に放る。


「……いいのか?」

「奴隷云々の件は、わしらオークも他人事じゃないからな。……それに、そこの娘が言ったろ。『聞いちまったらもう、他人ごとじゃない』ってな」

「しかし……」

「短剣は入り口近くの棚だ。儂は、何者かに毒を盛られたと言っておく」


 ナナミが、震える手で牢の鍵を開け、カザハナが表に出る。


「ありがとう、優しいオークさん」


 三人がぺこりと頭を下げると、鬼のような形相の門番は、


「いいから行け。さっさと行け」


 そういって、そっけなく背を向けるのだった。



 無事牢屋を抜けた三人の娘たちを見守りながら、俺は小さく嘆息する。


「……まったく。勇者の本分は魔王退治だぞ。あんまり寄り道してほしくないんだが」


 すると、いつの間にか俺の後ろに引っ付いていたモモが、にやにやしながら言うのだった。


「そんなこと言ってぇ。けっこうユーシャの肩、持ってるじゃん」

「なに? なんでそう思う」

「あのオークが現れた時、《スタン・ガン》を構えていたろ。人前で、無闇に生き物の意識を奪っちゃだめって規則があるのに」


 俺は、思いっきりしかめっ面になる。


「……万一のことがあるからな」


 けらけらと笑う後輩をチョップしてやりたい衝動に駆られながら。


 だが。

 以前に比べて、あのユーシャを応援したい気持ちが芽生えつつあるのも、事実なのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る