第1121話 東の思惑

~ここで少々時が遡る~


ブエルスの一室に広がる白い空間、純白としか言い様が無い程の白さはそこが医務室である事を物語っていた。

その医務室のベッドの、いや処置装置の上に一人の人族が寝かされている。


「豊雲、あの子が件の兵器の制御装置に使われていたという人族なんだね」

「そうです、コンスタリオ小隊の隊長を援護し兵器を破壊する際、もしかすると救出できるかもしれないと思って救出したのですが、見ての通り両目は固く深く閉じられています」


その人族の顔を見つめながら豊雲は天之御達に説明する。

その場には天之御を始めとする全員が集まり、その生命を凝視していた。

その様子は敵の情報を得ようとするような印象ではない、寧ろ人族の身を案じているようにも見える、いや、直後の


「あの子も彼奴等の様な連中によって生み出された犠牲者なのね……」


という空狐の発言からも滲み出ている様に実際その身を案じているのだろう。


「兵器も生命も同じ場所で生み出し、そして利用する……連携は取れているんでしょうけど苛立つ事この上ないわね」

「ええ、そしてその構成から考えると件の施設はブントが作り出したものではなく、その前身が作り出した物、ブントの内部構造から考えると東大陸の陣営がこのシステムを採用するとは考えにくいもの」


岬と空狐が口々にこう話すと豊雲も


「ええ、今まで調べたデータから推察すると東大陸のブント陣営は明らかに兵器に充填を置いていました。

それも兵器だけで総てが完結する形、丁度コンスタリオ小隊に与えられた飛空艇のような形です。

今はまだ制御系統は生命が受け持つ必要がありますが、行く行くは兵器だけで全てを制御出来る部隊の運用を目指していたようです」


と今まで調べた東大陸のデータからその裏付けがあることを告げる。


「東大陸のブント、その司令官であるイェニーは特にその傾向が強いようです、何しろデータの中に生命を不確定な要素が強い不完全な物と定義していましたから。

可能な限り不完全、不確定な要素を排し、常に安定した戦果を上げる部隊、機械のみで構成された部隊はそれを目的としていた物と考えられます」


豊雲は更に説明を続ける。

その説明はまだ天之御達にもしていなかったのか非常に丁寧であり、非常に改まった印象を受ける。


「イェニーの目論見は戦力の消耗という観点からすれば正しいのかもしれない、けどそれは同時に痛みを感じない殺戮の入り口にもなる」


天之御はそう語り、全否定はしないまでも否定する。

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