第1122話 悲しく虚ろな生命

ベッドに乗せられている少年の体を魔神族の技術の光が照らしていき、その光に照らされると少年の体の構造が天之御達の目の前にある画面に表示されていく。


「このデータ、この印象……何処をどう見ても通常の人族と、生命と齟齬があるようには見えませんね。

恐らく作られた生命も少なくともその身体機能は通常の生命と変わらないのでしょう。

ある程度作為的に歪められているとは思いますが」


そのデータをみた空狐がそう告げると


「私も同意見ね、恐らくは身体能力を兵器の制御に最適な様に組み込まれ、思考も奪われているのでしょう。

只、その点を除けば世界で生きる事も出来たのかもしれない……そう考えると余計に腹立たしいわね……」


と星峰も同意する。

その言葉は淡々と聞こえるが声が明らかに震えており、その内心に怒りを抱いている事が容易に想像出来た。


「他に何か分かる事はある?」


天之御がそう豊雲に問いかける。

その言葉にも星峰よりは抑えては居るものの震えが感じられ、天之御も又怒りを覚えている事が伺える。


「この少年の身体を見る限り、薬物での強化はされていない様です。

恐らく薬物での強化は元々普通に生を受けた生命を臨時に強化した物なのでしょう、それに比べると先に手を加えている分、身体的な副作用については殆ど無い物と思われます。

この技術を人造生命を生み出す際に利用されると大いなる脅威になる可能性も十二分に考えられます」

「確かにね……だけど少なくとも現時点までに確認出来るぶんとの施設、データにおいてこの技術が転用された人造兵士は確認出来なかった。

これはこの技術がこの施設だけでしか、或いは限られた施設でしか使用されておらず、今までブントが技術を入手していなかったが故なのか、それともイェニーが渡らないように妨害していたのか……何方の可能性の方が高いと思う?」

「何方も同じ位の割合で考えられる話だと思う、イェニーは生命の不確定さを嫌っているからね、それに関連する技術も封じ込めた可能性はあり得る。

こんな技術が渡ってしまったら出世競争の際の立場も危うくなるだろうし、何より自分自身の芯に反する技術は渡したくないだろうし」


豊雲と星峰の会話からこの技術がブントにおいて共有されていない事は想像出来た。

だがそうなるとこの技術が何故広まっていないのかという疑問が当然浮上してくる。

それに対する回答も二人の会話から略一致していた。


「少年の全身の解析が終わりました、あの少年の身体は特に変わった所はありません」


豊雲がそう告げると一同は画面に表示された解析結果に釘付けになる。

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