第1117話 組織として、生命として

「ええ、彼女が暴走した際、その行動は明らかに正気を失っている状態でした。

喩えコンスタリオ小隊をあの場で始末するつもりだったとしても奇怪な叫び声を上げる理由は全く無かった筈です。

寧ろ黙って撃てば、そして全員を撃ってしまえば私を悪者にして戦況をより混乱させる事も出来た筈です。

ブントがそこまで頭が回らないとは思えませんからね」


その場に居合わせた豊雲の説明は他の全員が納得するには十二分にある説得力を出していた。

やはりそれがその場に居たという事実の後押しなのだろう、他の面々もそう思わざるを得なかった。


「つまりアンナースはコンスタリオ小隊を始末するつもりではなかったが、何らかの理由で突然そう思わざるを得ない行動を取ってしまった。

そして状況から考えてその原因は間違いなく直前までコンスタリオ小隊が調べていたデータにある。

しかもその中に記載されていたんだろ」

「ええ、間違いなく記載されていました」


その会話から施設のデータになにか重要な事が記載されている事が伺える、いや、記載されている事自体は考えられる話であるが、それがアンナースの発狂と関連することであるという事こそが重大な問題なのだろう。


「そのデータはコンスタリオ小隊が持ち帰ったんだよね、そして僕達に提供を約束してくれた。

その点に関して不安は無いけど、彼等はアンナースについてどう説明するつもりなんだろう……そこが大きな不安材料だよ」

「ええ、全く予測出来なかった事であり、且つ敵の手に落ちたという説明もできる状況ではありますが、例えそれで話が通ったとしてもそうした事態が起こってしまったという事実が今後の彼等の行動に影響が出ないとは言い切れません。

ブントがそこまで計算しているのかどうかは定かではないにしても組織としての示しもある以上、お咎めなしというのもそれはそれで問題材料になりえますからね」


天之御と星峰が不安げにそう呟いている頃、件のコンスタリオ小隊は司令官に今回の一件の一部始終を報告していた、無論、アンナースについてもである。


「突然発狂したような声を上げたかと思うと発泡してきた、それで間違いないのだな」

「ええ、原因は分かりませんが、状況からそうとしか説明出来ません」


コンスタリオからアンナースのことについて聞かされた司令官はそう告げると少し間を開け


「……分かった、今回の一件について小言は私の方で引き受けておく、お前達は引き続き行動を続け、この戦乱の裏側に潜むブントという組織の全貌解明に全力を上げてくれ」


とコンスタリオ小隊にブントの実態解明をする様に命ずる。

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