第1037話 既視感を感じる焦燥

「では、準備を整えましょう。

幸いにも時間は与えられたのだから」


アンナースがそう告げると三人はひとまず部屋を後にし、そのまま自室へと戻っていく。

しかし、其の途中でもその内心が穏やかになる事は無い。

上層部からの不可解な指示とそれに伴う恐怖は確実にその内心に恐怖心を与え続けていたからである。

そして翌日の夜、作戦実行時間が迫る中、アンナースは一人例の地下通路に向かおうとする、だが其の途中で


「あら?又其の通路から何処かに向かおうとしているの?」


という声と共にシレットが其の背後から現れる。


「え……シレットさん?どうしてここに?」


アンナースがシレットに問いかけるとシレットは


「偶々通りかかったら貴方の姿が見えたから声をかけただけよ」


と返答する。

其の返答は何処か白々しさを感じさせるものの、アンナースの立場としてはそれを追求する事は出来ない。

内心に抱いている先日のモイストの遭遇が意図的なものでないかという疑念を悟らせる訳には行かないからである。


「偶々……ですか、では私は……」

「シレット?そこで何をしているの?」


アンナースが其の場を立ち去ろうとした其の瞬間、何処かからコンスタリオの声が聞こえ、其の場にモイスと共に其の姿を表す。


「あ、隊長、又ここでアンナースと出会ったので話しかけていたんです」


シレットがそう告げるとコンスタリオは


「又?そう言えばここは確かこの前の作戦前もアンナースに声をかけた場所ね」


コンスタリオはそう言うと周囲を見渡し、そこが先日の作戦直前にアンナースにモイスが声をかけた場所と同じ地下通路前であるという事を確認する。

だが其の動作には何処か態とらしさ、白々しさが感じられる。

いや、寧ろアンナースに対して感じさせているのかもしれない。

其の様子を感じさせるからこそ、アンナースは内心に少なからず苛立ちを覚える。

だがそれを悟らせる訳にも行かず


「で、今日は一体何を……」


とここに居る目的を聞いて其の場を立ち去ろうとするが、それに対しコンスタリオが返答した


「先日の兵器絡みで司令官に報告を行ったらより兵器について詳細に調べて欲しいという命令が下ってね、それでこの地下通路に来たのよ。

もしかしたらこの地下通路の先に司令官が欲しているより詳細なデータが有るのかもしれないから」


という内容を聞いて其の内心に焦りが生じる。


「司令官に報告されてしかもより詳細なデータを……だとするとこれは放置しておくのは危険かもしれないわね……」


そう内心で感じてしまったからだ。

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