第1036話 起こりえない風

「処分を不問にする……一体どういう風の吹き回しなの?」

「いや願ってもない話じゃないですか、だってこの任務を遂行すれば前回の失態だって水に流してもらえる訳でしょう?」

「そんな都合よく行くと思う?この行き先がよっぽどの危険地帯か、或いはこうした条件を出す程に直ぐに動いて欲しいと言う事になるのよ」


指令の内容を確認した後、浮かれた気分になるキャベルの司令官に対しアンナースは苛立ちを含めながら釘を刺すような口調で話す。

どうやらキャベルの司令官は相当にお気楽な性格のようだ、ここまでの会話を聞いているだけでもそう考えるには十分な印象であった。


「只、そんな指令が下る代物であれば放置しておく訳には行かないのは確かね。

直ちに出撃して……」

「待って下さい、指令によると出撃は今すぐは避け、明日の夜以降コンスタリオ小隊に気付かれにくい時間帯を選んで出撃せよとの事です」


気持ちが逸るアンナースであったが西大陸司令官のこの一言で落ち着きを取り戻す、いや冷静になるというべきだろうか。


「コンスタリオ小隊に気付かれないようにってことはつまり、コンスタリオ小隊が今回の任務に関わるのは私達にとって都合が悪いって事ね……既にその事態を一度招いた以上、私達を動かすのは本来であれば避けたいという事なのかも」

「にも関わらず今回は破格の条件でそれを実践しようとしている。

となると、個々にあるのはよっぽどのものであると考えてまず間違いないわね……

何れにしろ、今日出撃するなと言われた以上、下手に動いて恥の上塗りをするのは望ましくないわね」


アンナースも納得したのか、其の場はこれ以上指令について考察するのを止める。


「となると、コンスタリオ小隊が横槍を入れてくるのを防ぐ為にダミーの兵器データを渡しておくのが時間稼ぎとしては最適かもしれません」

「そうとは言い切れないけど……まあ、そうしたパターンも考慮しておくべきね、コンスタリオ小隊への対応はそれでお願い」


西大陸の司令官が出した提案に対し、アンナースは一抹の不安を抱きつつも他に妙案がある訳でもなく其の案に了承せざるを得ない。

とりあえず頼むと行った表情は見せたものの、そこには明らかに不満と不安が感じられた。


「ええ、今回の一件で私達の首もどうなるか分かりませんからね……討てるだけの手は討っておかないと……」


西大陸の司令官もその表情に提案が採用された嬉しさのようなものは一切感じられない。

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