第971話 指揮官の葛藤

指揮官の内心では今の副官の言葉は杞憂であって欲しかった。

否、今の自分の仮説も杞憂であってほしいと思っている、だがその背後から兵器が追跡してきている事、未だにその銃口が自分達に向けられているという現状は自身の仮説が正しいという事をこれでもかと言いたくなる程に証明していた。

追撃を仕掛けた甲斐があるのか人族部隊は魔神族部隊を補足する。

だがその手前には既にエアロタウン周囲の断崖絶壁が迫っており、陸地からはこれ以上の追撃は不可能であった。


「つっ、エアロタウンの端まで追いつめられたか……」


指揮官がそう呟く、追い詰めたのではなく、追い詰められたのだと。


「追い詰められた……これ以上の追撃が不可能である以上、あの兵器を対処しなければならないということですか……」


その発言と表情に副官の顔も曇っていく、そして人族部隊が振り返ると兵器はその場に停止し、即座に何かの音を出し始める。


「カチ……カチ……」


微弱ではあるがそう聞こえてくるのが移動車の通信機にノイズとして入り込む。


「この音は……総員、兵器から直ちに離れよ!!」


指揮官がそう叫び、人族部隊が直ちに距離を取ると同時にその場に居た兵器は一斉に自爆し、周囲を灰塵に帰す。


「今のは自爆装置……これ以上の追撃が不可能であると言う事は悟ったのでしょうか?」

「かもしれんが、目的は明らかに証拠の隠滅だろう、これでは此方の異変は証明しようがない、単に誤作動を起こしたと言われてしまえばそれで終わりだ。

それでも上層部に報告すれば何らかの調査は行われるかもしれんが、我らにとっても重要な拠点であるこのエアロタウンをみすみす手放すとは思えんからな」


副官が自爆に唖然としている横で指揮官は冷静に今後起こるであろう事態を予測していた、その様は落ち着いているものの、内心は気が気でなかったというのが傍から見ているだけで伝わってくる、そうした印象を受ける。

一方、エアロタウンの断崖絶壁から戦域を離脱した魔神族部隊も又


「一体どうなっておるのだ……施設の制圧を命じられた為に態々出向いたというのに人族部隊が予定外の抵抗をしてきた上に兵器まで出てくるとは……

この事を上層部は把握しておるのか……」


と今回の作戦に指揮官を初め、参加した全員が疑念を抱いていた。


「兎に角、今回の一見は単純にこれで終わりという訳では無さそうですね……

一度上層部を問い詰める必要があるかもしれません」


魔神族部隊の指揮官も又、これから起こるであろう事態を推測していた。

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