第931話 天之御の弱み

「そうだね……少しでも時間を作って資料を整理しておくべきだったよ……

全く、こうした計画性が無いというのでは魔王の名が泣くね……」


あまりの資料の多さ故なのか、天之御も自嘲的にこう呟く。

それは場を和ませる為の軽口なのか、本気の後悔なのかどっちとも取れる様な口調であった。


「……そうなのよね~天之御殿下は昔から自分の身の回りを片付ける事だけは本当に苦手なのよね」


天之御の発言を聞き、空狐がそう口にするとそれを聞いた天之御以外の全員の顔が少し驚いた物になる。


「昔からって……そうだったの?」


岬が空狐に問いかけている所を見るとどうやら初耳だったようだ、先程の驚いた顔はそれ故なのだろう。


「ええ、魔王になってからは司令官としての責任と威厳から可能な限り整理整頓しているけど、それ以前は他の事は問題ないのに何故か整理整頓だけは本当に苦手だったのよ。

おかげで何度捜し物をした事か……」


空狐はこう話を続け、それを聞いた天之御は明らかに赤面している。

だが反論が出ない所を見る辺り事実なのだろう。


「空狐は昔から殿下の傍に居たんだから俺達が知らない事も知っていて当然か、そして当然、それは記憶を共有した星峰も……」


八咫がそう口にすると天之御の赤面は更にその赤さを増していく、それにより先程までの疲労感は何処かに言ってしまう程の和やかな空気は出来上がるが、その代償としてか天之御は赤面から脱せない。

それを振り払おうとするかのように天之御は必死に資料を捲り、他の面々もそれに続いて資料を捲って行く。

するとその甲斐があったのか天之御が捲っていた資料の一ページに目を止める。


「キャベル内ブント関連施設において記憶操作被験体の複数の確保命令、プロジェクトパターン8における外部養育者の被検体を回収するよう命令。

どうやらそろそろ戦力として育成するに十分な時期であると判断した模様。

同時に証拠隠滅の為被検体育成エリアの排除も実施」


天之御が読み上げた資料の一文に先程までの和やかな空気は消え、再びその場は重い空気に包まれる。


「何……ですかそれ!?一体何の悪ふざけなんです!?」


岬が信じられないと言った様子で思わず取り乱した声を上げると天之御は


「今の言葉通り……という事になるとブントは実験の被検体を外部、つまり外で育ててから組織に戻すという実験も行っていたみたいだね。

もしそうだとするなら……」

「この子も……その被験体だったかもしれないって事……」


その事実は天之御達の胸に重くのしかかる。

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