第930話 生み出されるまやかし

「それって……正に今回涙名の体となっている生命に対して行われた可能性のあることじゃない……やはりブントは記憶を作り出す能力を持っていると言う事なのね……」

「此処に書かれている文章を見る限り、そういう事になるね……

そして涙名の体となっている生物にそれが行われた可能性も当然浮上してくる。

只、仮にそうだとしても具体的にどの様な記憶を植え付けて何をしようとしていたのか、その点が疑問として残るね。

忠誠心を誓わせたいのは検討が付くけど、どうにもそれだけじゃない感じがこの文章からは読み取れるよ」


八咫の見つけた資料を確認した空狐と天之御がそう告げると他の面々も神妙な顔付きになる。

何しろ狙いが読めないのだから不気味としか言い様が無かった。


「不安定な感情を作り出してその爆発力を利用する……考えられる可能性としてはそんなところだろうけど、それなら身体能力を強化した方が確実だ。

となると、この技術は作り出した生命に対してではなく、集めた生命に対する洗脳技術として作り出されたものなのかも」

「洗脳技術……考えられる可能性としては十分だね」


涙名の語った推測はあくまで現時点でのものであった、だがそれでもその場にいる一同が納得するには十分過ぎる仮説であった。


「そうだとしたらその子は洗脳されて暗殺部隊に加入したって事?其処までしたくなる程の能力の持ち主だっていうの?」

「かも知れないね、正直この子の能力は暗殺者として考えた場合にはかなり優れていると言える。

妖術の能力は勿論の事、身体能力もね、ただ、そうなってくると疑問なのは……」

「どうしてそんな生命が偶然ブントに加入するなんて展開になったか……正直に言って偶然とは思えない、もし、それ自体が初めから仕組まれていたんだとすれば……」


暗殺部隊に対する疑念は益々深まっていく中、この仮説から天之御は余りにも突飛な考えを想像する。

それは言っている本人も内心ではそんな事があるのかと思わずにはいられないレベルの話であった、だが、今目の前にある資料はそうした現実をも考えさせるだけの材料となりうるものであった。


「とにかく、もっと調べてみましょう。

そうすれば核心に迫れるかも知れない」


再び空狐が口火を切り、一同はそれに賛同して再び資料捜索を再開する。

その後も幾つか新しい情報を得る事は出来たものの、どれも暗殺部隊に繋がるような情報ではない。


「やっぱり表に出てこないとなると中々情報も集まらないね……」


涙名も情報収集は続けているものの、少々疲労感が感じられる。

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