第929話 まやかしの記憶

その返答を聞いた天之御は


「分かった、なら一緒に行こう。

星峰、そっちの方は任せたよ」


と屈託ない笑顔を浮かべて言い、それを聞いた星峰も


「ええ、任せておいて」


と同じく屈託の無い笑みを返す。

その会話は傍から見ていると大きな組織の秘密に迫っているとは思えない和やかな雰囲気が漂っていた。

それを確認すると天之御は転移妖術を発動させ、星峰只一人を残して魔王の城へと移動し、それを確認した星峰は


「天之御、先代魔王の残してくれた物、無駄には出来ないわよ……」


と笑顔から少し真剣味を帯びた表情に変えながら口にし、そのまま足を進めて謁見の間を後にする。

一方、魔王の城へと移動した天之御達は直接今回の主たる目的地である資料室に移動した為、周囲を無数のファイルで囲まれた部屋へと移動する。


「これだけの資料に一体何が記載されているのか……腰を据えて調べるのは初めてだね……」


資料の数の多さに天之御も少々尻込みしている様にも見える。


「今まで入念に資料を調べた事は無かったの?」

「恥ずかしながらそうなんだよね……僕が魔王の座に着いた時、既に戦乱は大きな局面を迎えていた事もあってじっくり調べている時間が取れなかったんだ。

何しろ一つの油断が即部隊を総崩れにしかねない、そんな戦況だったからね」


涙名がふと疑問を口にすると天之御は少しすまなそうな声でこう返答する。

その返答からは魔王として申し訳ないという気持ちが感じられた、いや、それだけでは、或いはそうではないのかも知れないが。


「とにかく、さっさと資料を調べていきましょう、歴代の魔王が集めた資料がこれだけあるのであればブントに繋がる手掛かりが何か掴める可能性はありますから」


そう言うと空狐は有言実行とばかりに直ぐ側にあったファイルを手に取り、その中身を調べ始める。

それに続ける形で他の面々も次々と資料を手に取り、その中身を調べていく。

するとある資料の一部を目にした八咫が


「おい……これって……」


と何かに気付いた様子を見せる。


「何?一体どうしたの?」


他の面々が八咫に問いかけると八咫は


「此処に書かれている生命の実験……明らかに那智町の事を書いている。

けど問題は其処じゃねえ……」


と言い、現在見つめている資料のページを更に強調した口調で


「被検体No13 那智町地下の被験体に記憶を植え付ける実験に成功。

これにより我々に対する疑念が生じるリスクを軽減すると共により大きな戦力を生み出す可能性も向上」


とその資料に書かれている文章を読み上げる。

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