第914話 三文芝居ではない侵攻

それを確認した天之御は


「有難う皆……行こう!!」


と大声を出し、敢えてその場にいる全員に確認の言葉を掛ける。

そんな物は不要と言わんばかりにその場にいる全員が再び頷くとそれをモニター越しに見ていた司令官が


「行く……という事は殿下が直接問題の街に?」

「ああ、この状況でもたもたしている訳には行かないからね。

君達も念の為戦力を準備しておいて、万が一他の街も兵器が襲撃してきた場合、君達に迎撃してもらう必要性が生じるかもしれないから」


と心配を含んだ言葉を掛けると天之御はそれに答えつつも司令官に備えるように告げる。

それを聞いた司令官も又、首を縦に振って頷く。

そしてそのまま天之御達は転移妖術を使い、現地へと移動し、それをモニター越しの司令官は敬礼して見送る。


「殿下……どうかご無事で」


その言葉は表面上対立している関係で掛けられる言葉とは余りにもかけ離れた気遣いの言葉であった。

それだけ此の司令官も又世界の行く末を案じているという事なのだろうか。

此の司令官と天之御達の関係はこの世界の本来あるべき形を暗示しているようにも見える。

一方、現地へと移動した天之御達がそこで見た光景はこれまでのブントの進行とは明らかに異なる光景であった。

住民の避難も間に合っておらず、ブント側の部隊と思われる現地部隊が兵器を持ち出し、生命と連携して侵攻してきている兵器と交戦している。

その光景は少なくともこれまで見てきた三文芝居の侵攻劇とはかけ離れていた。


「これは……ブントの自作自演という訳では無さそうね、今回の襲撃は」

「ああ、これまで見てきた襲撃とは明らかにかけ離れている、何より住民も避難できていないし、街も……」


街の風景は凄惨とまでは行かないものの、所々が兵器によって破壊されそれだけで此の兵器が悪意を持って進行してきていると考えるには十分過ぎるものであった。

そこに天之御達に気付いたのか、近くに居た部隊の兵士が駆け寄り


「天之御様!!一体どうして此処に……」


と声を掛けてくる。

その声に白々しさはなく、本当に此処にいるのが不可思議と思っているようだ。


「此の襲撃の事を知って飛んできたんだ、それよりも状況はどうなっているの?」


天之御がそう兵士に問いかけると兵士は


「此方方面の兵器は何とか食い止めてはいます……ですが他のエリアの部隊がどうなっているか……敵が妨害電波を出しているのか我々の無線通信が機能していないのです」


兵士はそう言うと通信端末を取り出して無線通信を試みるものの、兵士の言う通り酷いノイズが入り、繋がっているのかどうかすらも判断出来ない状態となってしまう。


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