第868話 汚れた飲食物

「この成分……これまで調査してきた先史遺産の施設にあった薬物にも含まれている身体強化成分ね……

つまり、ここで作られた飲食物は……いえ、もしかするとこの空気の中にも……」

「ええ、その可能性は十二分に考えられるわね。

そして、少なくともここで作られた飲食物は間違いなくここで生み出された生命の体内に入り込んでいる。

そう考えるともうその結論しか出ないわ」

「飲食物も経由して奴等は人造生命の兵士としての完成度を高めていた。

つまりは飲食物も又、身体能力を強化する為の道具に過ぎないって事だね」


データが表示された画面を見た空狐が発した言葉に対し、星峰と天之御はこう返答する。

そしてその発言を裏付けているのは他ならぬそのデータであった。

そのデータには空狐の言う通り、これまで先史遺産の施設、及びそれを模倣したと思われるブントの施設で使用されていた薬物の成分が完全に含まれてるのが確認出来る。


「つまり、奴等は飲食物から成分を摂取させていたって事か……でもそれなら何で他の施設で見たのは薬物なんだ?飲食物に混入させる技術があるっていうんならそのままその技術を使って混入させた方が怪しまれねえだろうに……」

「即効性を求められたからかもしれないね。

飲食物経由であれば怪しまれる可能性は低く抑えられる半面、どうしても直接投与よりは効果が出るのは遅くなる。

もしそれを考慮した上でそうしているのだとしたら、新たに建設された施設ではより即効性のある形での兵士としての完成を求められた可能性はあるよ」


八咫が疑問を呈すると涙名がこう返答し、それに続く形で天之御も


「涙名の言う通りかもしれない。

そもそも外部に立てられた施設がここの施設で得たデータを元に分割されたのであれば、当然この施設の問題点をフィードバックしている筈だし、外部の立地条件から考えるとこの施設に対する防壁として作られた可能性も高い。

その点を考慮すると少しでも早く実践に投入出来る兵士を準備したいという思惑が働いた可能性は高いよ」


と言葉を続ける。


「その部分に対しては私達も此奴等の事を言える立場ではないかもしれないわね。

防衛前線を展開する為に熟練の兵士を投入するというのは戦術上の基本だもの。

最も、それを作為的に作り出すというのは許せる話ではないけど」


星峰は少し意味深な声でこう告げる。

その声にどこか引っかかりを感じつつも天之御は


「そうだね……だけど、それを知る事が出来たのは良かったかも」


と声を続け、星峰の言葉に賛同する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る