第809話 ユダヴェの名が示すもの

「サルキス派の連中……何でったってこんな先走った事をしてくれたのよ……

もしこれで彼等に私達の事がバレたりしたら今まで私達が築き上げてきた努力が泡沫に消散することになるじゃない……」

「本当、派閥争いというのは厄介ですね……イェニーといいサルキスといい」


アンナースと司令がこう話す。

どうやら彼女達は此の派閥争いには関心が無い様子だ、或いは他にも派閥があるのかもしれないが。


「此の世界の平定はユダウェ様の手によって為される。

あの連中はその法則すらも分かっていないのでしょうか?それとも戦乱が続く事を望んでいるのでしょうか?」

「何方とも言えるわね、奴等の兵器開発部門は戦乱が続けば続く程利益を得る事が出来るもの。

そして、私達もそれに加担しているという点に置いては否定は出来ない。

最も、ユダウェ様に従うという点では致し方ない部分もあるのだけれど」


司令官とアンナースの口からは人族が崇める神ユダウェの名が語られた。

ブントという組織は新興宗教的側面も持っているのだろうか?


「それはそうと、アンナース、貴方は今回の戦場には赴かないの?」

「もう少ししたら赴くつもりよ、さっき上空からの映像を確認したけどどうやら彼等がサルキスの居る中央司令部に入っていったみたいなの。

万が一サルキスにヘマをやらかされて私達の事が明るみに出たりしたらその末路は悲惨だもの。

それに……」


此処まで流暢であったアンナースの言葉がここに来て急に滞る、余程話したくない事なのだろうか、それとも……


「そうなのね……だけど今から行って間に合うの?」

「まあ、あの要塞が直ぐに陥落するってことはないでしょうから、何しろサルキス派はあの要塞が陥落したら終わりだもの」

「確かに……西大陸最大のタウンを切り捨ててまで起動させ、それで侵攻に失敗したとなれば立場はありませんね」

「それだけじゃないわ、同じく上級からの映像を確認したけど彼処には今……」


アンナースがそう告げる理由はその該当するタウン、オペールタウンの現状にあった。

そこは今正に星峰と天之御が人族部隊と共に進行している場所であったからだ。


「施設内部の調査状況はどうなっているの?」

「人族から提供されたデータによれば大半は調査出来たわ、あと残っているのは司令室だけよ!!」


天之御の問いかけに星峰はそう返答する、そして残っている場所と呼ばれている司令室も又目前にまで迫っていた。

その勢いのまま司令室に突入し、その内部を見渡すが既にそこは蛻の殻である。

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