第808話 サルキスという男
「恐らくは、なので今から部隊を向かわせても無駄足となってしまうのですよ」
司令官は得意げにそう語るが、コンスタリオの内心は晴れるどころか寧ろ疑念が増していた。
そしてその内心には何処か此の司令官という男に対する反発が自覚出来た。
「此の男……いえ、此の司令部にいる連中は何なの?上手く言い表せられないけど、何か、何処か気に入らない……」
そう自分の心が感じるのをコンスタリオは誤魔化す事が出来ない。
生命は自分自身に対しては嘘をつくことは出来ないのだろう。
だが内心で反発していても今はそれを論議している時間もなかった。
「それで、これからどうするつもりなんです?」
「既に奴らはここにまで迫ってきていますからね……少し強力な部隊を差し向ける必要があるでしょう。
無論、貴方方にも向かって頂きたいのですが、協力者に対しては我々は命令を下す事は出来ませんからね」
コンスタリオの問いかけに対し司令は余裕を持った笑みでこう返答する。
命令を下す事は出来ないと言葉の中に含めてはいるものの、その内心には迎撃に迎えという下心があるのは明白であった。
「一寸!!そんな……」
「分かりました、では好きに行動して良いという事ですね」
司令官に反論しようとするシレットを制し、コンスタリオは静かにそう告げる。
「その様に受け取ってもらっても構いません、無論、ここが重要な施設である以上完全に自由にという訳にはいきませんが」
司令官がそう告げるとコンスタリオ小隊はそっと部屋を後にする。
それを見届けると部屋の中に居た一人の兵士が
「サルキス様、宜しいのですか?彼等は……」
とサルキスと司令官に問いかけるがそのサルキスと呼ばれた司令官は
「構わんさ、奴等とて立場や状況を弁えているのならこの状況で迂闊な真似はしないだろう。
それにイェニーやアンナースが一目置いている連中だといっているが、奴等に所詮他者を見る目など無い。
成り上がりや小娘でしか無いのだからな」
と明らかに見下した口調で返す。
その返答に兵士も
「そうですね……奴等が自分勝手な事をしてくれたお陰で此方は今回の侵攻を急がなければならなくなったのですから」
と同調の意を示す。
その口調からこれは上司の圧力に負けての同調ではなく、本心からそう思っている事が伺える。
一方その頃、今の発言において名前が上がったアンナースも又、拠点にて司令官と会話を交わしていた。
「もし、今回の作戦が失敗したら……」
「下手をすれば私達の椅子も、いえ、命もブントから無くなるわね」
その会話には明らかに不安が混じっていた。
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