第773話 世界の行方
人族部隊の兵士を退けるものの、涙名の顔に笑顔等は全く浮かんでこない。
「この力も又……そうして粗末にされる生命から生み出された物……それを今はこうして対抗する手段として用いてはいるけどね……」
涙名がふとそう零し、空孤は回想する。
「そうか……今の涙名君の……」
共に長い時間を過ごし、戦場を戦ってきた事で忘れかけていたが、涙名が現在自身の肉体として用いている魔神族も又、ブントによって作り出された物である。
それを忘れていないからこそ、涙名はこう呟いたのだろう。
「……空孤?」
「何!?まだ何か……」
空孤の異様な雰囲気を感じ取ったのか、涙名はふと顔を上げて空孤の方を振り向く、すると明らかに慌てた様子で取り繕う空孤が目に入るが、その直後に再び人族部隊が出現する。
「まだ来るのね……本当、此奴らの戦力は無尽蔵と言ってもいいのかもしれない……」
「どうしたの?少々弱気になった?」
涙名が少し揶揄う様な発言をするが、空孤は
「そんな訳ないでしょう!!孤妖術……赤色の葬花」
そういうと人族兵士の周囲に赤い花を咲き乱らせ、その花から妖術の瘴気を放って兵士に吸い込ませてその意識を失わせる。
その瘴気は兵器にも作用し、兵器の機能も停止しその場に崩れ落ちる。
その一連の流れは無駄のないスムーズな動きであった、だがそれ故に涙名に
「空孤……何か考えていたの?さっきの様子と言い……」
と要らぬ疑念を抱かせる事となる。
一方空孤もその自覚はあるのかその迷いを振り切ろうとするかの様に足早にその場を駆け抜け、要塞へと接近していく。
涙名と兵士達もそれに続き、徐々に魔神族は要塞に迫りつつあった。
その要塞の中においては
「奴等の抵抗もやはり激しい物があるな」
「ええ、小癪にもこの要塞に乗り込もうとしているようです」
「ふん、仮に乗り込んだ所でどうする事も出来まい」
等といった魔神族を見下す様な発言が行われていた。
「他のタウンの部隊についてはまだ展開出来んのか?」
「ええ、申し訳ございませんが何分急すぎたもので……」
「確かに、もう少しモラトリアムを与えた方が良かったかも知れんな」
どうやら人族の他のタウンの部隊はまだ展開が終わっていないようである、最も、中には意図的に展開していない部隊もあるのかもしれないが。
「展開をあからさまに拒んでいるタウンについてはどうする?態々踏み潰しに行く程の事でも無いとは思うが」
「その事については後に対処する、今は魔神族への侵攻が第一だ」
この戦いの行方がこの世界そのものを左右する、そう思わずにはいられない会話である。
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