第772話 粗末にされる生命
だが迎撃してくる人族部隊も流石にこのまま引き下がってくれる訳ではない、すぐさま後続の部隊が到着し再び迎撃態勢をとってくる。
「くっ、そんなに命を無駄にしたいのか……」
「無駄にしたいというよりも、命という物がどんな物なのか、それすらわかっていないのかもしれない」
追撃してくる兵士にいら立った口調をぶつける同志の人族兵士に対し天之御はあくまでも冷静な口調でそう伝える。
だがその口調は決して冷静なのではなく、努めてそうしているだけに過ぎない。
それは星峰をはじめ、周囲にいる兵士達も理解していた、故にこの天之御の発言を冷たいと思う者は一人としていない。
「総員、攻撃開始!!」
天之御側の人族部隊兵士の一人がそう叫ぶと他の兵士はそれに合わせる形で一斉に銃を手に取り、魔法を唱え始める。
そして放たれた銃弾は敵対する人族兵士を打ち抜き、魔法は兵器を破壊する。
その後には破壊された兵器と負傷し動けなくなった兵士が倒れ込んでいた。
「やはり数頼みなんでしょうか……兵士としては完全に未熟そのものです」
先程号令をかけた兵士が呆れた様な声で呟く、だがこの声にも先程の天之御と同様、静かではあるが確実に怒りが感じられた。
「そうかも知れないね、そしてそれは確実に生命の価値を、重さを蝕んでいる。
恐らくここだけじゃなく、空弧達が戦っている戦場にもこの兵士達は投入されているんだろう」
「だとしたら、猶更こんな所でもたもたしてはいられないわね」
兵士、天之御、星峰、それぞれが言葉の中に静かな怒りを感じさせる。
その怒りは足にも表れているのか更に先へと進んでいくその足の速さも又増していくのであった。
一方、今の話題の中に名前が挙がった空弧、そして彼女と共に行動している涙名は戦場から要塞へと確実にその距離を縮めつつあった。
森林地帯に入っている要塞が木々を薙ぎ倒す音が大きくなるにつれてその距離が確実に縮まっている事を二人は自覚し始める。
そしてその自覚を証明するかの様に目の前にまたしても人族部隊が出現する。
「また人族部隊が出てきたわね……それだけあの要塞に近づけたくないって事なのかしら?」
「かもしれないけど、だったら尚の事こんな奴等に手古摺っていられない!!」
空弧の発言に対する涙名の返答に空弧は頷き、そのまま兵士の方を向いて剣を手に取る。
だがそれよりも早く涙名が
「闇色の爪……大地の筵!!」
と言って妖力を込めた爪を地面に突き立て、そのまま人族兵士の下から巨大化させて出現させ串刺しにする。
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