第625話 中央の片鱗

「兎に角、そのアンナースと言う少女には今後も警戒が必要だね、どんな形であれその少女がブントに忠誠を誓っているのであれば今後僕達にとって脅威となる事は確実だから」


天之御がそういうと一同は全員首を深く縦に振り頷く。その意見に異論がなかったからだ。

一方、その渦中のアンナースはと言うと拠点司令室で司令官と会話をしていた。


「あの施設に魔神族が強襲をかけて来た?」

「はい、それも先程転移妖術を用いて魔王直属の部隊が仕掛けてきた様です」


司令官の言葉を聞き、アンナースの顔には隠れて居る形ではあるものの怒りの表情が見え隠れする。


「全く……無暗やたらに触りまくって警戒心を煽るからこういう事になるのよ。調査はもっと慎重に行うべきなのに」


アンナースのその発言はベテラン故の呆れと怒りなのだろうか?それとも……

そんな心境を感じさせる言い方であった。


「此方が送っていた調査部隊は全滅させられたようです。これで施設の調査に支障が出る事は確実です」

「全く……戦争の表面しか見ていない、地上の事しか見えていない連中が中央に固まると碌な事が無いわ。イェニー様が健在の頃はまだ理性的に動いていたのに」


アンナースの発言から彼女がイェニーを心棒しているのは明らかであった、その発言を聞き司令官は


「お言葉ですがアンナース、あの方は……」

「ええ、分っているわ。権力に取りつかれた故に身を滅ぼした……でしょう。その事は承知はしているわ。でもそれでも私にとっては命の恩人、その事実は変わらないの」

「そうですね……出すぎた口を失礼しました」


司令官の諭すような言葉を受けたアンナースは逆に司令官に諭す様な発言を返し、その言葉を受けた司令官は言葉を中断する。それはアンナースの諭す発言を受けたからだけではない、その時に見せたアンナースの顔が何処か物悲し気に見えたからである。アンナースも自覚はあるのかその言葉を発する際、普段とは明らかに違う複雑な表情を見せていた。


「で、今回の一件で中央は今後どうするつもりなの?あれだけ引っ掻き回しておいて早々に手を引く……なんて事はないんでしょう?」


司令官にそう問いかけるアンナースの声は半ば呆れを見せている様にも見える、それだけ中央の性質を承知しているという事なのだろうか。

その言葉にもどこか投げやりな印象がある。


「ええ、幸いと言いますか、魔神族も施設全てを調査したわけではない様なので早急に部隊を派兵するとの事です」


司令官の返答を聞き、アンナースは更に呆れた様な表情を浮かべる。

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