第624話 中央のお気に入り

「先史遺産捜索の中心メンバー……」

「恐らくあの拠点に派遣されたのもその経験を買われての事だと思う。確証は無いけどね……」


岬が警戒心を抱いた口調でそう語ると涙名がそう続ける。


「涙名、一体どこからその情報を仕入れたの?」

「此処ブエルスに残されていたブント関連の情報を空き時間を使って調べてみたら出てきたんだよ。父の日記にあの少女が加わってくれた事で捜索が捗っているっていう一文がね」


天之御の問いかけに対し、涙名はそう返答する。父が関わっているが故なのか、その顔には見えない様に取り繕ってはいるものの怒りを感じるが、周囲の面々は敢えてそれに触れる事はしなかった。


「つまり、涙名の父もその存在は把握してたって事か……となると、そのアンナースって奴はブント内部では相応の知名度を持っているって考えて間違いねえな。

けど、俺達にその情報は殆ど入って来てねえ」

「戦場で戦果を挙げているのであれば交戦した此方側もそれなりに情報は掴める筈です。それが無いと言う事はやはり、先史遺産関連でその名を広めていると考えてまず間違いないでしょう」


八咫と豊雲が続けていったこの言葉により、アンナースが捜索でその名を広めているのを一同は改めて実感する。続けて涙名は


「ただ、父の日記にはそれ以外の事については殆ど書かれていなかった、だから恐らく父の直接の部下ではないと思う。

この点から考えるとアンナースという少女は捜索を中心に行う中央のお気に入りって所に位置している可能性が高い」


と続ける。

涙名の言葉を聞き、創作に秀でていると予測した一同の内心は更に引き締まる、万が一にも捜索で先手を打たれる様な事があれば惨劇を引き起こしかねない先史遺産を集中的に捜索しているという存在がその引き金を引く可能性は想像に難くなかったからだ。


「組織の中心に気に入られている存在か……厄介だね、それにそれだけ捜索に時間を費やしているのなら兵器や人工生物との交戦経験も相応にあるだろうからそれを転用しこちらに差し向けてくる可能性も当然高い。

考えようによっては今回の施設の転用もその少女が言い出した可能性も捨てきれないね」


天之御の言葉に一同は更に警戒心を強める、そして同時にこれ以上あの施設を放置して置く訳には行かないという決意も新たにする。


「だけど、どうしてそんな少女が今回に限ってコンスタリオ小隊に直接接触を試みているのかしら?捜索とは全く趣が違う任務なのに……」


緊迫した空気の中、ふと空弧がそう疑問を漏らす。

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