第580話 感謝の意味

「君が過去を話してくれたから、話す決意を固めてくれたからあの施設の全貌を知る事が出来たんだ」


続けて天之御がそう言葉を続けても八咫の困惑した顔は続く、やはり何故自分がお礼を言ってもらえているのかは分かっていない様だ。


「いや、それは……まあ、当然の事だと思いますし、星峰も空弧も涙名も岬も自分の過去と向き合ってる、俺だけがそれから目を背けるって事は出来ないと思ったので……」


こう語る八咫の返答も何処かたどたどしく、困惑が続いている様子が見て取れる。

そんな八咫に空弧は


「いいえ、過去と向き合うのって大事だけど大変な事、そう簡単に出来る事じゃないわ。それを決めたのは八咫自身なのだから私も感謝してる」


と優しげな声と言葉をかけ、他の面々も空弧の言葉に頷く、それはその言葉に同意していると言う事なのだろう。


「そうなの……か……まあ、ならありがとうな」


此処まで言われて八咫も納得したのか、それともそうでないのかは不明だがテレ渡井の様な表情を浮かべる。

其れを見て天之御も崩した顔の笑顔を見せ、施設の中の殺伐とした空気とは違う何処か和やかな空気が流れる。

だがその和やかな空気も


「さて、それは良いのだけど……」


と言う星峰の口火によって終わりを告げる。


「あの施設があると言う事は那智街自体、もしかするとあの施設のカムフラージュの為に作られたのかもしれねえ、後からあんな規模の施設を追加するのは並大抵の事じゃねえからな」


他ならぬ八咫が強い口調でそう星峰の言葉に続ける、その言葉には明らかに怒りが込められていた。


「そうだね、もしかしたら父はそれに気づいたからこそ、那智街の人事を特に重視したのかもしれない」


天之御のその言葉も事の重大さを裏付ける。


「そう考えると那智街が周囲を人族の領域に囲まれているという構図も気になるね。

まるでいつでも攻め込めるようにしているかの様に見える。

或いは外部との遮断の為に……」


涙名も又、深刻な表情を浮かべてそう告げる、それは嘗て人族側の上層部に居たが故なのだろう。

立場は違えど同じく嘗て人族側であった星峰も涙名の顔を見つめ、それに同意している事を暗に示す。


「何れにしても今回の兵器の襲撃が良くも悪くも那智街の裏の面をあぶり出した事は否定しようがない。

そう考えると猶の事問題の施設を野放しにしておくわけにはいかない」

「ええ、最悪の場合、此処に直接兵器が侵攻してくる事も考えられるわ。そんなことになる前に手を打たないと」


天之御と星峰の意見が一致した事に他の面々も危機感を募らせる、彼等二人の意見が一致すると良くも悪くもそれが的中するからだ。

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