第579話 天之御の激励

中に入って来た現地の部隊は皆困惑した表情を浮かべている、話に聞いてはいるものの、実際に目の当たりにするとまだ信じられないといった印象の顔だ。

そんな顔を浮かべる現地部隊隊員に天之御は


「皆さん、態々御足労頂き有り難うございます」


と声をかける。すると現地部隊隊員は


「い、いえ、とんでもございません。

魔王様の、そして司令官の命とあらば何処までも付いていきます」


とぎこちない返答を返す。

魔王である天之御に話しかけられるのに慣れていないのもぎこちない一因なのだろう。だがその光景を見た他の隊員が


「おいおい、幾ら何でも緊張しすぎじゃないのか?」


とその隊員を揶揄う様な発言をし、それに対して最初の隊員が


「だ、だってしょうがないだろ、魔王様なんだぞ!!」


と焦った様に返すとその場に居た隊員達の顔から先程までの困惑が消え、微かではあるが確実に笑いを見せる。


「否、魔王が話しかけたらぎこちなくならない方が……」


揶揄う様な発言を見かねたのか、涙名がその隊員のフォローを入れようとするが八咫がそれを制止し


「良いんだよ、これが那智町の部隊らしさだ、さっきのだって別に彼を笑いものにしたい訳じゃない、ただこの場の空気が少し重かっただけだ」


と言って涙名の顔を直視する。

その顔は先程までの八咫とは違う穏やかさがあり、その言葉が真実である事、この流れが心配無用である事を物語っていた、それを察したのか、涙名もそれ以上何も言う事は無く、そのまま隊員達に目を向ける。


「なら、この施設の防衛と調査はお願いします。ゆくゆくは解体処分したい施設だけど今直ぐと言う訳にはいきません、その間常にここはブントに狙われるリスクを孕んでいると言えるでしょう」

「分かっています。この那智町を、いえ、世界をブントの好きにはさせません」


天之御が防衛部隊に激励の言葉をかけると先程までの揶揄いの空気はどこかへと言ってしまったかのような緊張感がその場を包む。

けっしてギスギスしている訳ではない、寧ろ天之御の言葉に神経を引き締めている、そんな感覚であった。


「なら僕達も戻って今後に備えよう」


兵士達への激励を終えた天之御はそう告げると星峰達の元に戻り、転移妖術を用いてブエルスへと帰還する。

そして帰還し謁見の間に着いた後


「有難う、話してくれて……」


と八咫に向かって告げる。


「え……何で……」


その言葉を聞いた八咫は困惑した表情を浮かべる、自分が何故ありがとうと言ってもらえたのか全く分かっていない様子だ。

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