第509話 悪夢の世界の序章

「さっき戦った奴が街中に……成程、そう言う事ですね……確かにそれは恐るべき脅威となりますね……」


涙名の言葉に事態を察したのか、岬も納得した表情を浮かべる。


「それが既に実戦配備されているとなると、ローファータウンは相当ブントに侵食されており、又先史遺産の技術についてもかなりの割合が手に落ちているとみるべきね。もしこれが他の街にも、いえ、他の大陸にも潜伏し始めたら大変な事になる」


星峰の言う懸案と指摘は最もであった。人の皮を被った兵器、そんな物が各地に潜伏し始めればどんな事になるのかはその場に居る全員が容易に想像出来た。


「信じあう事も、手を取り合う事も出来ずに争い合い、それを仲介するブントだけが私腹を肥やしていく。そんな世界にさせる訳にはいかない!!」


涙名の声も又、天之御のそれと同様に強い語気となる、嘗ては天之御と同様、人の上に立つ者としての立場にいたが故にそうさせるのだろうか。


「うん。だけどローファータウンの内情が余りにも分からなすぎる。今下手に仕掛けると最悪は返り討ちにされるかもしれない。何とかしてローファータウンの情報を仕入れられるといいんだけど……」


先程までいきり立っていた天之御がここに来て急に冷静な発言をする。だがその冷静な発言はその場に居た面々に向けているというよりはいきり立っていた自分自身を諫める為にそう発言しているようにも見える。それを察したのか、星峰も


「そうね……身内に対しても秘密主義である以上、最悪は住民全員が兵器で構成されている、何て事も考えられなくはないわ。コンスタリオ小隊がローファータウンに接触してくれればまだやり様はあるのかもしれないけど……」


とそれに続く言葉を述べ、その場の空気を冷静な物へと導いていく。


「取り敢えず、今は休もう。ここでこんな話をしていても仕方ない。元々休む時間だったわけだし」


冷静さを取り戻した天之御がそう宣言すると一行は納得した表情で頷き、その場から去って自分の部屋に戻っていく。その後、自分の部屋に戻った涙名は


「人に成りすます兵器か……この城の極秘資料に何か記載されているかもしれないな……」


と呟き乍ら床に就くのであった。


一方、コンスタリオ小隊の居る拠点ではそんな事とは無縁の空気が流れていた。否、正確に言えば流れていたのではない、流れていなかったのだ、ローファータウンの部隊の一件が。


「分からないわね……松波街部隊の一件の謎。まあ、そう簡単に解ける訳ないのでしょうけど」


コンスタリオが松波街部隊の一件について呟いている事がそれを証明していた。

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