第508話 天之御の激情

その後、駆け寄った他の面々も含めて散り散りの人族部隊の身柄を拘束し、そのまま転移妖術でブエルスへと帰還し、身柄を確保した人族部隊を一旦投獄して何時もの様に謁見の間に集まる。


「人族部隊の身柄拘束には成功し、且つブントの作戦を阻止する事は出来たけど……喜びの声を上げられる状況じゃないね」


涙名がそういうと他の面々も黙って頷き、それに同意する。その事実を表しているのは先程の部隊の中に居た生命に擬態した兵器であった。


「人の皮を被った兵器……まあ、街中に紛れ込む兵器を作る技術があるのであれば作られていても不思議ではないのかもしれないけど。

一見すると分からない所に紛れ込ませるのはかくれんぼの常套手段だもの」


何時も通り冷静に戦況を分析する星峰、だがその直後に出た言葉は


「それよりも天之御、さっきから気になっているんだけど……」


と天之御に対して向けられた疑念を含んだ言葉であった。否、疑念ではないのかもしれない、星峰が天之御に対して抱いている信頼は本物である。だが信頼しているが故に見逃せない疑問がある、そんな心境が感じられる問いかけであった。


「やっぱり星峰の目は誤魔化せないね。いや、他の皆も気付いてはいたけど口にしていないだけかな」


天之御は何処かはぐらかそうとしている様な口調で返答するが、その返答は逆に星峰達の疑念を強める結果になる。そう顔に現れている。


「星峰の言う通り、さっきの戦いで僕は少々気が立ったよ。先代魔王の……父の資料で見せてもらった忌むべき存在が目の前に居たのだから」

「えっ!?どういう事なんですかそれ!?」


天之御の返答に空弧が思わず困惑した声を上げる。他の面々も声こそ上げていないものの困惑したのは同様であった。


「先史遺産の技術を調べていた父はある時僕に告げたんだ。この技術をもし悪用すれば生命に成り代わる兵器を生み出す事すら出来ると。

その時の僕はまだ魔王の使命も、その名の重さも知らず、ただ幼さに身を任せて生きていたからその言葉の意味は分からなかった。

だけど父の話を聞き、成長していくにつれて分かったんだ、こんな兵器がもし生み出されたら世界が終わってしまいかねないって!!」


天之御が語尾を強め、少し早い口調で話す言葉は相応の重みが入っていた。それだけ強い思いを持っていると言う事なのだろう。


「世界が終わってしまうって、幾等なんでもそんな……」

「いや、もし生命に成りすます兵器が街の中に入ってきた、そんな状況で心穏やかに岬は過ごせるの?」


天之御の発言でも大袈裟に聞こえたのか岬は疑問を投げかけようとするがそこに涙名が割って入る。

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