第447話 血族の終焉

「はあっ……はあっ……はあっ……」


突き刺した剣を引き抜いた空弧はまるでフルマラソンを完走したかのような荒い息を上げる。それだけ精神的に背負い込んでいたのだろう。そのまま空弧は力を失ったかの様に座り込んでしまう。それを見た天之御と星峰が傍に駆け寄り、空弧の両肩を抱えて支える。


「天之御殿下……星峰……御免なさい、私……」

「疲れているなら今は話さなくていいよ。ひとまずブエルスに戻ろう、話はそれからだ」


疲労困憊状態の中、辛うじて動く口で謝意を述べる空弧に天之御は優しく声をかける。それ程彼女の事を気にかけているのだろう。それは声にこそ出していないものの、星峰も同じだった。その状態のまま転移妖術を使い、一行はブエルスに帰還する。何時もであればここで作戦終了後の振り返りを行うが、本日はそれは無かった。帰還直後に天之御が休息を命じたからだ。それが空弧の身を案じての事なのは誰から見ても明らかであり、且つそれに反対する者も居なかった。それだけ全員が空弧の事を気にかけていたのだ。それを察したのか、空弧も特に反論等はせずに自室に戻っていき、彼女に気を遣わせるのを避ける為に他の面々もそのまま休む事になる。

自室に戻った空弧は


「これで……良かったのよね……この呪縛を断ち切る為に、この世界を平穏へと導く為に巫女としてやるべき事は!!」


と繰り返し発言していた。その様子は自分を納得させようとしている様にも先に進むために自身を鼓舞しているようにも見える。しかし疲労にはその言い聞かせも勝てなかったのか、ベッドの上に座っていた空弧はそのまま横に倒れ、眠りに落ちてしまう。


一方、今回の交戦は人族部隊が関わっていたと言う事から既に人族側にも伝わっている。コンスタリオが通信を開いていた時点ではまだ公にはなっていなかったがその後人族部隊全体に伝わる事になっていた。


「八米街を襲撃か……あいつ等、急いた事をしてくれたわね。しかもこちらの部隊を動かして失敗に終わったばかりか返り討ちに逢うなんて……今後のこちらの行動を見直さないと」


自室でこう一人ぶつぶつと文句を言っていたのはアンナースだった。どうやら今回の一件に対し不満を抱いている様子だ。


「全く、巫女として選ばれた一族だからって慢心するからこういうことになるのよ。お蔭でこっちも変なフォローを入れなきゃなんないじゃない」


怒りが収まらないのか、その不満は留まる事を知らない様だ。

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