第444話 崩れるのは足場か、それとも……

「涙名君……」


そう話しかける空弧の声はこの状況には若干似つかわしくない動揺が混ざっていた。涙名の思わぬ行動に困惑したのか、それとも……


「他者の家庭環境にしゃしゃり出るつもりは無いんだけどね……あんたのその傲慢さ、それはそれ以前に許せない。父親と言う立場を利用し、空弧を歪めようとするその傲慢さは」


そう語る涙名の声には明らかに怒りが感じられた。しかもその怒りは空弧と同等、或いはそれ以上に強く激しい物である。


「涙名……」


その怒りの理由を察したのか、星峰と天之御はその内心を推し量る。何か思う所があるのだろうか。


「あんたは僕の父と一緒さ。立場を利用し、周囲を欺いて従順な兵士に仕立て上げようとしたという点ではね」

「お前の父だと?確かにお前の姿は見覚えがあるな……だが、それ以上の口は見覚えがあろうとなかろうと許さん!!」


強気に非難する涙名に対し、空弧の父は九本の尻尾の先端から黒い光を放ってくる。

涙名はそれを躱しつつ接近し、空弧の父の体を爪で切りつけ、その部分に傷を負わせる。だが空弧の父の体は黒い靄が生じ、その傷を直ぐに回復させてしまう。


「ダメージを直ちに自己修復した?」


切りつけた直後の光景を見た涙名がそう口にすると空弧は


「取り込んだ怨霊の力を使っているのよ。それも桁外れな量を取り込んでいるから生半可な攻撃では直ぐに回復されてしまうわ」


と解説する。それを聞いた空弧の父は


「ほう、面汚しと言えども力の詳細は把握しているか……その点だけは流石だな」


と言った後口から咆哮を放ち、その咆哮に怨霊の力を纏わせて衝撃波の様な状態にする事で一同を攻撃してくる。狭い部屋ごと罅を入れ、広範囲に渡って放たれたそれを一同は回避する事が出来ず、そのまま吹き飛ばされてしまう。何とか全員受け身は摂る事が出来、壁に叩きつけられるのは阻止した物のその直後に罅が入った事が引き金となり部屋は崩壊し、天井が落ちてくる。


それに気付いた天之御が


「皆、防御態勢を……」


と叫ぶもののその叫びは間に合わず天井は無情にも地面に落下し、一同の元にも落ちてくる。崩れ、瓦礫の山と化したその場所の周囲は土で囲まれている。如何やらここは地底にあった様だ。その瓦礫を吹き飛ばし、空弧の父が姿を表す。


「おやおや、それなりに耐久性は確保しておいたのだが……まあ良い邪魔者は……」

「始末出来たとでも言いたいんですか?」


空弧の父が得意げにそう話している所に割って入る様に天之御の声が聞こえてくる。

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