第445話 歪んだ平穏

その声がする方向に空弧の父が視線を向けるとそこには暗闇の膜で自身と他の面々を守った天之御が居た。その周囲には星峰達も居る。それを見た空弧の父は


「おやおや、周囲を守りつつ自身も守護するとは。そのお力を侵攻の為に使われればどれほど効率的に世界を掌握出来る事やら」


と天之御を挑発するような発言を浴びせかける。だが天之御はそれに対し


「この力を使うのは太平の為だ!!お前達の様な醜い欲望の塊の私腹を肥やす為じゃない」


と毅然として言い返す。


「醜い欲望の塊とは……言ってくれますね!!」


その言葉が空弧の父の何かに触れたのか、空弧の父は全身の黒い靄から衝撃波を放ち、再び一同を吹き飛ばそうとしてくる。だが天之御は先程と同じ膜を張り、衝撃波を完全に防ぐ。


「お前も、お前の父もそうだ!!何時でも我等を排除しようとする。我らの繁栄こそが世界を平穏に導く唯一の術であるというのに!!」


空弧の父が狂ったように叫び始める。すると天之御は


「確かにお前達の言う世界が実現すれば平穏にはなるだろうさ。お前達にとって都合のいい人族と魔神族だけが存在し、その全てをユダウェが支配する世界になれば!!」


と強い言葉を発して反論する。それは只の反論ではなく、自分自身に対しそういう事で鼓舞している様にも見える。そのまま膜を広げ、その衝撃波を押し返して逆に空弧の父にダメージを与えるものの、やはりその体は直ぐに再生されてしまう。


「くっ、やはりあの再生能力を何とかしないと……」


再生が繰り返されているためか、若干弱気とも取れる声で涙名がそう発言する。その時星峰が


「ねえ、少しの間だけで良いの。彼奴の動きを止める事は出来る?」


と一同に問いかける。


「星峰、何か策があるの?」

「上手くは言えないけど……何かを感じるの。そして、それに従うべきだっていう私の感覚がある」


空弧の問いかけに対する返答は星峰らしからぬ曖昧な物であった。だがこれまでの経験も踏まえたのか、天之御は


「分かった。やってみせて」


と星峰の提案に賛同する。その直後空弧の父が尻尾を伸ばしてこようとしたが


「魔王妖術、深淵の束縛!!」


と言う声と共に地面から出てきた黒い鎖によってその体を拘束する。


「くっ、こんなもので……」


空弧の父は力づくで鎖を断ち切ろうとするがそのもがいている所に星峰が接近していく。そして剣を振り翳し


「たああーっ!!」


と言う声と共に喉元を切り裂く。するとそこは再生するどころかその傷口から靄があふれ出てくる。

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