第439話 九死に一生を

だがその瞬間


「でやあぁーっ!!」


と言う声と共に爆音が響き、同時にこの部屋の天井が崩れ落ちる。


「!?何だ!?何が起こった!?」


先程までの余裕とはかけ離れた動揺した声を空弧の兄が上げたその瞬間、天井から天之御、涙名、空弧、八咫、岬が降りてくる。


「やっぱり、お前達だったんだね。今回の襲撃を裏で手引きした……否、子の襲撃を仕組んだのは!!」


天之御が強気な口調で気圧する様に空弧の兄に迫る。だが空弧の兄は


「な、何の事ですか魔王様……私は只久し振りに妹と会いたくなって……」


と白々しく言い逃れようとする。だが続けて空弧が


「言い逃れようとしても無駄よ!!既にあんた達の根城の方にも手は回してあるわ!!」


と叫ぶ。その空弧の言葉通り、空弧の実家である屋敷には既に魔王軍の兵士が基地司令と豊雲の指揮の元多数突入しており、内部に居た兵士を一掃しつつ今回の襲撃、否ブントとの繋がりを証明する多数の証拠を押収していた。


「ほう……我々の居らぬ間に勝手に家に入り込むとは……随分乱暴な手口ですね」


そこに聞きなれない老人の声が聞こえてくる。だが口調から察してその声が天之御達に友好的では無い事は明らかであった。その証拠に空弧の兄がその声を聞いて安堵の表情を浮かべている。


「こういう時の為に特権ってのはある様な物ですからね。それに、乱暴な手口なのはお互い様でしょう。低下しつつあるブント内での、否ブントそのものの影響力を取り戻す為に嘗て切り捨てた血族を再度利用しようとするなんて」


その声の主に対し、天之御はその口調とは裏腹の真顔で返答する。するとその声が聞こえていたのか、空弧の兄の背後から更に数体の魔神族が姿を現す。その姿を見た空弧は一瞬身を震わせる。


「おや、その反応……そうか、そういう事か!!お前は役目を恐れる余り遂にその役目を他者に押し付けようとしたか!!」


身を震わせた空弧を見て背後の魔神族の一体、最も老齢であろう男がそう嘲笑う。


「父上、どういう事です?」

「つまり、お前が捕えたのは空弧の体をした別の存在と言う事だ。我らに伝わる禁断の秘術、変転輪廻を使ってな!!」


空弧の父と呼ばれたその魔神族は嘲りとも怒号とも言える声でそう叫ぶ。その声を聞いた他の魔神族は一様に驚嘆の顔を見せ、空弧の父の方を振り向く。


「変転輪廻って……そんな馬鹿な!?あの秘術は長きに渡り使える者がおらず、半ば都市伝説の類とすら化していたのに……」


直ぐ隣にいた女魔神族がそう告げると空弧の父は


「そう、だがこの状況ではそう考える他あるまい」


と続ける。その声は至って冷静であり、先程の声とは異なっていた。

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