第438話 実体化する傲慢

「当然じゃない!!勝手に切り捨てておいて都合が悪くなれば連れ戻して利用しようとする。そんな自分勝手な奴等の家族になんて頼まれたって戻りたくないわ!!」


星峰はこれまで上げた事が無い位の強い声で反論する。それは単に自分の気持ちがそう感じたからと言うだけではなく、空弧の記憶、気持ちも上乗せされての事であった。決して無意識にそうしたのではない、星峰は空弧の分も怒りを感じていた。

空弧の記憶を持っていなくともこの怒りは抱いている。そう思わずには居られない程の激しい物である。


「やれやれ……そんなにあの魔王に毒されたって訳か。だったら最終手段に出るしかないね。もう最終手段を投じなければならないとは思わなかったけど」


空弧の兄はそう言うと何かの妖術を唱え始める。それが危険性を含んでいる者である事は明らかだったが、身体を拘束されている星峰は逃げる事が出来ない。


「こいつ……何をする気なの?」


星峰は内心でその術を見極めようとするが、空弧の兄は


「悪霊憑依!!」


と言って手に黒い何かを集め、それを星峰に当てる。すると星峰の周りに黒い靄が出現し、その体を侵食しようとする。


「くっ……こ、これは……」


苦しそうな声を上げる星峰、どうやら術に抗っているようだ。それを見て空弧の兄は


「忘れたわけじゃないだろう、僕達が死霊を操る能力に長けた一族だって事を。最も、落ちこぼれのお前には全く使えなかったがな!!」


と得意げに笑う。その姿は正に傲慢と言う文字に服を着せた様な姿だった。


「くっ……ううっ……」


苦しそうな声を上げる星峰、それに対して空弧の兄は


「どうだ、死霊の思いを受け止める器になるのは?最も、受け入れてしまえば直ぐだがな。その苦しみが終わるのは」


と告げる。明らかに挑発しているのは見え透いていた。


「死者の魂を……利用するなんて悪趣味な……」


苦しそうな声ながらも必死に反論しようとする星峰に対し空弧の兄は


「何とでも言えばいいさ。どうせお前はもう直ぐこっちに戻って来るんだ。そうなれば……」

と得意げな表情、傲慢な笑みを崩さない。その間に靄は星峰を侵食していき、その苦しみを確実に増大させていく。


「う、ううっ……」

「中々にしぶといね……あの魔王の所に行ったせいで少し強情になったって所かな。なら……」


空弧の兄はそういうと尚も力を強めようとする。だがその時、星峰の顔に微かに笑みが浮かぶ。


「ほう、ついに諦めたか……」


空弧の兄はそういうと星峰に近づき、その顔に手を添えようとする。

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