第276話 その嬉しさは本物
「……今言えるのはここまでよ。ごめんなさい、星峰を信じてない訳じゃないの、ただ……」
そう言いかけて言葉に詰まる空弧、だが星峰は見逃していなかった。今も、そして話している最中も空弧の体が小刻みに震えているのを。本人が気づいているのかどうかも分からない些細な震えだが、それは空弧の内心を表している、星峰はそう確信していた。
「分かったわ、そしてありがとう」
「え……?」
「ほんの少しでも話してくれた事、嬉しかった」
星峰の対応が予想外だったのか、空弧は少し困惑した顔を浮かべる。だが目の前にいる星峰が優しい笑みを浮かべているのを見て空弧も自然と笑みを浮かべる。その笑顔に偽りは無い。
「貴女が何を背負っているのか、それは今の私には分からない。でもそれと向き合うのであれば、私は……」
「それ以上は言わなくていいよ、気持ちは十分感じているから」
星峰が何かを言いかけるがそれを空弧は制し感謝の気持ちを伝える。その光景は二人の関係性が明らかに変化している事を物語っていた。そしてその笑顔のまま空弧は星峰の部屋を後にして自分の部屋に戻り、寝具の上に腰かける。そして
「星峰の笑顔……私も嬉しかった。だからこそ応えなきゃいけない、向き合わなきゃいけない……」
と呟き、笑顔は変わらないものの、その語気に強い意志を込める。
翌朝、食堂で何時も通りの朝を迎え、星峰と空弧も一見すると何時も通りであるように見える。だが分かる者にはわかるのか、涙名が
「星峰と空弧、今日は機嫌良いね。女同士で秘密の話し合いでもした?」
と揶揄う様な一言を投げかける。それを聞いた星峰と空弧は明らかに動揺した反応を見せる。
「その様子だと図星みたいですね」
悪乗りを始めたのか、岬もそれに便乗し、二人の困惑は益々広がるがそこに
「皆、この後今後の方針について伝えるから早く集合してね」
という天之御の助け舟が渡される。
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