第275話 空弧の独白

自室に戻り、何時もの様にシャワーを浴びる星峰、もう御馴染みの光景だ。だが今日は一つ違う部分があった。星峰はシャワーを浴びながら自分の体をじっと見つめている。下心がある訳ではない、だが見つめずにはいられなかったのだ。


「この体は元々は空弧だった……そして今日、亡霊達と戦った時の空弧の言葉は明らかに何時もより周囲を動かしていた。何故?亡霊に対して空弧は特別な何かを持っているというの?」


星峰の脳裏には今日の作戦行動中の空弧が浮かんでいた、故に体を見つめていたのだ。


「この体に……空弧の体になってから結構経った様に思ったけど、まだまだ分からない事が多すぎる。魔神族の事、空弧の事……」


そう呟いた星峰はシャワーを止め、そのまま上がる。するとそれを待っていたと言わんばかりに部屋の扉をノックする音が聞こえてくる。


「誰?どうぞ」


星峰はそういうとノックの主に部屋に入ってくるように返答する、すると扉が開き、ノックの主である空弧が入ってくる。


「空弧?一体どうしたの」


星峰が訪ねてきた理由を聞くと空弧は


「貴方の事だから私の事を考えているんじゃないか、そう思って来たの」


空弧の発言に星峰は表面上には出さなかったものの、一瞬動揺を見せる。まさにその通りだったからだ。


「だから……少しだけ話しておこうと思ったの。私の事……」


空弧はそういうと椅子にも座らないままその場に立って話し始める。


「私は他の家族と折り合いが悪くてね、何時も周囲に縛られてた。そんな私に天之御様は軍に入るという形で自由を与えてくれた。その為なら呪われた血筋の力も使えた。だから私は天之御の願いを、この世界の安寧を叶えたい。

たとえその結果、神に背く事になったとしても」


空弧が話したのは非常に簡略化したと思われる断片的な話だった。だがそれでもその話に今伝えたい言葉が散りばめられているのは感じられた。そして星峰はその事にどこか嬉しさを感じていた。だが同時に伝えたい言葉からただならぬ覚悟、自身が感じていた疑問の回答が浮かんでくるのも感じていた。

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