第199話 会いたい気持ち 会えない気持ち

自室に戻ったシレットだがその顔はやはり晴れない。ついこの前一度しか会っていないとはいえ顔を知っている人物が手にかけられ訪れたタウンが陥落したのだ、晴れたかをしている方が可笑しいと言えば可笑しい。それに加え内面の疑念もある、精神的な面での疲労は相当な物であった。


「……スター、貴方は今どこに居るの、どうしているの……お願い、教えて」


シレットはそう呟くが、直ぐにハッとして顔を上げる。


「私は今何を……この場に居ない人の事を呟いて助けを求めようとするなんて」


直後にシレットは自分らしくない事をしたと考え、頭を左右に激しく揺らす。その動きは何かを振り払おうとしているかの様にも見える。だがその思いが届いたのだろうか、、直後にシレットの目の前にあるモニターにスターからの文章通信が入る。


「えっ!?スター!!


シレットは慌てて画面を操作し、すぐさまその内容を確認する。


「シレット、ワンカーポの事は聞いたよ。スパイの事を把握しておきながら防ぎきれなくて……御免」


冒頭のその一文を読んだだけだが、シレットの目には涙が溢れていた。


「スター……そんな事より、貴方は今どうしているの……」


その涙がスt-あの無事を確認出来た事によるものなのか、それとも不安や心配、自身の内心に抱えている物で押し潰されそうになっているが故なのか、それはシレット本人にも最早わからなくなっていた。それ程までに追い詰められていたのだ。


「ワンカーポが陥落してしまった以上、魔神族の狙いはキャベルと西の大陸に絞り込まれつつあると思う。既に西の大陸の魔神族には怪しい動きもみられる、十分に注意して欲しい。今言えるのはそれだけだ、又何かわかったら連絡する」


通信内容にはこう記されていた。それを見たシレットは


「スター……お願い、私に顔を見せて、どんな姿でもいいから、受け入れるから」


と思わず会いたい気持ちを吐露する。だが同時に西の大陸に目を向ければもしかしたら会えるかもしれない、そんな気持ちが内面に確かに芽生えていた。だがその気持ちを嘲笑うかのように警報が鳴り始める。それを聞いたシレットは黙って立ち上がり、部屋の外に出て走っていく。

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